2023.5.10
業務委託契約者に対するセクハラについて賠償請求が認められた事例~東京地裁令和4年5月25日判決(労働判例1269号15頁)~弁護士:五十嵐亮
事案の概要
当事者
原告(X)は、美容ライター等として個人のホームページを開設していた者である。
被告(Y社)は、エステ店(本件エステ店)を経営している株式会社である。
XとY社の契約内容
本件エステ店は、東京都内のマンションの一室で営業し、手技や機器を用いて行う女性専用のエステサロンであり、Y社代表者がすべての顧客に対する施術を行っている。
Y社は、Xに対し、本件エステ店における施術を体験した上で体験談や感想を執筆し、Y社ホームページに記事を掲載する業務を委託する契約を締結した。
セクハラの内容
裁判所が認定したY社代表者がXに対して行った行為の内容は、以下のとおりである。
① 本件エステ店での打合せ時に過去の性体験について質問をした
② 本件エステ店での施術時に上半身裸になるように求めた
③ 本件エステ店での施術時に施術用の紙パンツを脱ぐように指示し、Xの下半身を触った
④ 原告の記事の質が低いことを理由として契約を打ち切る旨を告げた
⑤ Xはプロフェッショナルではない、記事が上位に表示されないのであれば意味がないなどというメッセージを送信した
⑥ 本件エステ店での打合せ時にXに抱き着き、キスを迫った上、上半身の服を脱ぐように指示した
⑦ 今の状況ではスキルが低すぎるので報酬を払えない旨のメッセージを送信した
Xの請求内容
Xは、Y社に対し、セクハラ行為を受けたとして安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求する訴訟を提起した。
本件の争点
本件の争点は、
① Y社代表者の行為が違法なセクハラに当たるか
② Y社代表者がセクハラ行為を行ったことがY社の安全配慮義務違反に当たるか
③ 損害の額という点である。
裁判所の判断
争点①について
Y社は、本件は業務委託契約であることから、Y社代表者がXよりも優越的地位にあるわけではないとしてセクハラに当たらないなどと反論したが、この点について、裁判所は、XはY社代表者から仕事内容をみて報酬を増額する可能性を示唆される一方で、結果が出なければすぐに契約を終了する旨を告げるなどした上で、Y社代表者の指示を仰ぎながら業務を遂行していたとして、Y社代表者とXは優越的関係にあったと判断し、Y社の反論を認めなかった。
次に、Y社は、Xがセクハラ行為の被害を訴えることなく本件エステ店の利用を継続していたことから、セクハラではないと反論した。
この点について、裁判所は、Y社代表者がXに対して性的な言動に及んだ合理的理由は見当たらず、いずれもXの意に反するものであったとして、Y社の反論を認めなかった。
争点②について
裁判所は、本件は業務委託契約であるものの、XがY社代表者の指示を仰ぎながら業務を遂行していたことから、実質的にはXはY社の指揮監督下で労務を提供する立場にあったとして、Y社はXに対する安全配慮義務を負っていたと判断した。
その上で、Y社代表者がセクハラ行為を行ったことが、Y社の安全配慮義務違反に当たるとして、Y社にもXに対する損害賠償義務があると判断した。
争点③について
裁判所は、Y社代表者のセクハラ行為は極めて悪質と評価しつつ、Xがうつ状態として当分の間通院加療が必要と診断されていることなども考慮し、合計で150万円の支払を命じた。
本件のポイント
本件は、労働契約における労働者ではなく、業務委託者に対するセクハラが問題となった事案です。
業務委託者であるXがセクハラの行為者であるY社代表者ではなく、Y社に対して損害賠償請求をするためには、Y社に契約上の義務としての安全配慮義務違反が認められる必要があります。
安全配慮義務は、労働契約法5条に規定されていますが、最高裁判例では、労働契約に限らず、契約関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間において認められるものとされているため、本件のような業務委託契約の場
合であっても安全配慮義務が認められることがあるので、注意が必要です。
また、本件では、Y社側から、「セクハラ被害の訴えがなく本件エステ店の利用を継続していた」との反論がなされていますが、裁判所はこの反論を認めませんでした。
このことは、最高裁27年2月26日判決が、「セクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたり躊躇したりすることが少なくない」と判断したことが影響しているものと考えられ、「抵抗されなかった」「断られなかった」「被害申告がなかった」という反論は認められづらい状況にありますので、この点についても注意が必要です。
初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年3月5日号(vol.278)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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