2022.8.9
有期雇用における不更新条項が有効とされた事例~横浜地裁川崎支部令和3年3月30日判決(労働判例1255号76頁)~弁護士:五十嵐 亮
事案の概要
当事者
被告Y社は、自動車運送、特殊輸送等の物流全般及び関連事業を事業内容とする株式会社である。
原告Xは、Y社の配送センターにおいて配送事務に従事する有期雇用労働者である。
雇用契約の内容
平成25年6月28日、XとY社は、以下の内容の雇用契約を締結した(以下「本件雇用契約」という)。(図表参照)
雇用契約の更新の状況と雇用契約満了による雇止め
その後、本件雇用契約は、1年ごとに順次、3回に渡り更新された。
更新に際しては、それぞれ雇用契約書が作成され、賃金額(時給)が、1270円(1回目更新時)、1300円(2回目更新時)、1400円(3回目更新時)とされている以外に契約内容に変更はなかった。
平成29年6月29日、本契約の4回目の更新がされた。
このときに作成された雇用契約書には、賃金額(時給)が1450円とされ、契約更新については、「更新はしない」と記載された(以下「本件不更新条項」という)。
平成30年6月1日、6月30日をもって本件雇用契約を雇用期間満了とすることを書面により通知した(以下「本件雇止め」という)。
Xの請求内容
Xは、Y社に対し、Y社が本件雇用契約を5年の満了を理由として雇止めしたことについて、本件不更新条項は労働契約法18条(※1)の無期転換申込権を回避・潜脱しようとするもので違法・無効である等と主張して、被告による雇止めが違法であるとして、雇止め後の給与の支払いを請求して、提訴したものである。
本件の争点
本件の主な争点は、本件不更新条項が労働契約法18条の無期転換申込権を回避・潜脱しようとするものとして違法・無効となるかという点である。
裁判所の判断
裁判所は、結論として、本件不更新条項は、違法・無効ではないとしてXの請求を棄却した。
【理由】
・本件雇用契約では、締結当初から、5年を超えて更新しないことが明確に示されており、Xもそのことを認識して本件雇用契約を締結していた
・Y社内において、本件不更新条項に反して更新されていたなどの事例(運用)は認められない
・Y社では、労使協議を経た一定の社内ルールによって、契約締結当初より5年を超えないことを契約条件としていることから、労働契約法18条の潜脱には当たらない
本件のポイント
有期雇用契約の通算期間が5年を超えた場合にいわゆる「無期転換権」が発生します。
本件では、Y社が、契約当初から契約更新の上限を5年と定めていたところ(本件不更新条項)、Xが、本件不更新条項が無期転換権を定めた労働契約法18条の潜脱であるとして違法・無効であると主張したものです。
有期契約の更新の途中で不更新条項が挿入された場合について、そのような不更新条項は違法・無効であると判断された裁判例はありました。
本件は、途中からではなく、有期雇用契約の当初から5年を上限とする不更新条項が記載されていた事例であり、その後も一貫して運用されていた点などが考慮され、違法・無効とはされなかったものです。
今後の実務の参考になるものと思います。
※1【労働契約法18条1項本文】
同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。
以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年6月5日号(vol.269)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
関連する記事はこちら
- 契約期間の記載のない求人と無期雇用契約の成否~東京高等裁判所令和5年3月23日判決 (労働判例1306号52頁)~(弁護士 薄田 真司)
- 非管理職への降格に伴う賃金減額が無効とされた事例~東京地裁令和5年6 月9日判決(労働判例1306 号42 頁)~(弁護士:五十嵐亮)
- 売上の10%を残業手当とする賃金規定の適法性~札幌地方裁判所令和5年3月31日判決(労働判例1302号5頁)~弁護士:薄田真司
- 扶養手当の廃止及び子ども手当等の新設が有効とされた事例~山口地裁令和5年5月24日判決(労働判例1293号5頁)~弁護士:五十嵐亮
- 死亡退職の場合に支給日在籍要件の適用を認めなかった事例~松山地方裁判所判決令和4年11月2日(労働判例1294号53頁)~弁護士:薄田真司
- 育休復帰後の配置転換が違法とされた事例~東京高裁令和5年4月27日判決(労働判例1292号40頁)~弁護士:五十嵐亮
- 業務上横領の証拠がない!証拠の集め方とその後の対応における注意点
- 海外での社外研修費用返還請求が認められた事例~東京地裁令和4年4月20日判決(労働判例1295号73頁)~弁護士:薄田真司
- 問題社員・モンスター社員を辞めさせる方法は?対処法と解雇の法的リスクについて
- 未払残業代について代表取締役に対する賠償請求が認められた事例~名古屋高裁金沢支部令和5年2月22日判決(労働判例1294号39頁)~弁護士:五十嵐亮