パートタイマー従業員に対する配転命令は有効か?~津地裁 平成 31年 4月12日判決~

事案の概要

会社の概要

被告となったY社は、レンタカー業等を営む株式会社である。Y社は、中部地方を中心に複数のレンタカーの営業所を運営している。

 

原告の請求内容

原告(X)は、平成4年よりY社に有期契約社員として雇用され、契約を反復更新してきた。契約内容は以下のとおり。

 

 

Xは、それまで、鈴鹿店にて勤務してきた他、通勤圏である津店や名張店にも勤務したことがあった。Xは、平成29年6月より名古屋店への勤務を命じられた(以下「本件配転命令」という)。

なお、交通費については、特急料金を含む全額を支給するとされている。

Xは、本件配転命令は無効であるとして訴訟を提起した。

 

配置転換に関する就業規則等の定め

ア 就業規則の定め

Y社には、パートタイマー就業規則があり、この就業規則には、次のような定めがあり、勤務地について配置転換がある内容となっていた。

 

<パートタイマー就業規則7条>

1項   会社は業務の都合によりパートタイマー等に対し、職場職務の変更及び出向、

 派遣、配置転換等人事上の異動を命じることがある

2項   パートタイマー等は正当な理由がない限り人事異動を拒むことができない

 

 

イ 雇用契約書の定め

Xは、平成4年より6か月の有期雇用契約を反復継続して更新しているところ、当初の雇用契約書には、「勤務地」欄に「鈴鹿店」とのみ記載され、平成25年4月以降の契約書には「鈴鹿店及び近隣店」と記載され、平成26年以降の契約書には「鈴鹿店及び当社が指定する場所」と記載されていた。

勤務地欄の記載の変更について、特に説明はなかった。

 

 

ウ 求人情報の記載

Y社は、平成30年7月時点で東海3県においてレンタカーフロント業務を担当する正社員の募集をしていたが、求人情報には「自宅から通勤圏内での店舗間の異動はありますが、転居を伴う転勤はありません」とされていた。

また、平成30年5月時点で三重県内の店舗においてパートタイマーを募集していたが、その際の求人情報には勤務地としてそれぞれの店舗名・店舗の住所が記載され、「近接店への応援あり」とされているとともに「勤務地もたくさんあるので通いやすい場所を選んでもO K!」とされていた。

 

 

裁判所の判断

裁判所の判断枠組み

裁判所は、本件配転命令の有効性を判断するためには、

❶勤務地限定の合意があるかどうか

❷配転命令が権利濫用にあたるかどうか

の2点を検討し、勤務地限定の合意がなく、権利濫用にあたらない場合に本件配転命令が有効になるという判断枠組みを採用した。

 

勤務地の合意は認められるか?

裁判所は、Y社については、確かに、パートタイマーに対しても配置転換を認める旨の就業規則の規定は存在するが、以下の事情を重視して、近隣店舗に限定する勤務地限定の合意があったと認定した。

①基本的には、多くの従業員は、通いやすい場所を選んで勤務していた

②他の店舗での勤務については、近接店舗に応援するもののみとされていた

③正社員についても通勤圏内での異動のみとしている場合もあった

④平成26年以降の契約書には「鈴鹿店及び当社が指定する場所」と記載されていたが、記載の変更について、特に説明はなかった

 

 

配転命令権の行使が権利濫用にあたるか?

裁判所は、以下の事情を指摘して、本件において本件配転命令を行うことは、権利濫用にあたると判断した。

●パートタイマーに過ぎないXを異動させて補充しなければならない事情を認めることができない

●Y社は、鈴鹿店の他の従業員が、Xと一緒に働くことを拒絶していると主張するが、異動させるほどの事態に至っているとまでは認められない

●Xをして改善の機会を何ら与えていない通勤が長時間になることは否めず、Xの不利益が大きい

 

結論

裁判所は、本件においては、XとY社との間に近隣店舗に限定する勤務地限定の合意があったと認定した上で、本件配置転換は権利の濫用にあたるとし、結論として、本件配置転換は無効と判断した。

 

 

 

本 件 のポイント

本件では、勤務地限定の合意があるか否かが主な争点となりました。

Y社側としては、就業規則及び平成26年以降の雇用契約書に配置転換について規定があることを理由に、勤務地限定の合意はないと主張しました。

しかし、裁判所は、勤務地限定の合意があったと判断しています。

裁判所はその根拠として、前記 ①~④ の4つの事情をあげています。

このように、裁判所は、就業規則や契約書の規定だけではなく、運用実態も考慮した上で判断しますので、就業規則の運用の際には注意が必要です。

 

 

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年10月5日号(vol.237)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

/

       

関連する記事はこちら