即戦力採用の管理職に対する本採用拒否が有効とされた事例 ~東京地裁 平成31年1月11日判決~

 

事案の概要

Y法人の概要

被告Y法人は、保育所や障害児通所支援事業の社会福祉事業等を行う社会福祉法人である。

 

 

XとY法人の労働契約の内容

Y法人は、発達支援事業部の部長となるべき者を募集していたところ、Xがこれに応募し、平成28年11月1日、年収約1000万円とする期間の定めのない労働契約が締結された。

業務内容は、発達支援事業全体のマネジメント及びグループ全体の事業推進への寄与とされていた。

 

本件労働契約においては、試用期間を入社時より3か月とする旨の約定がなされていた。

 

Y法人による本採用拒否とXの請求

Y法人は、平成29年1月31日付けで、後記①~ ⑥の言動等があったことを理由として、本採用を拒否する旨通知した。

 

これに対し、Xが、Y法人に対して、本採用拒否が違法・無効であるとして、本採用拒否以降の賃金を請求する訴訟を提起した。

 

問題となった言動

① 会議への欠席

平成28年11月16日、発達支援事業部において、今後の発達支援事業の方向性について議論する会議が予定されていたが、原告は特段の理由なく会議を欠席した。

 

② 部下とのトラブル(その1)

Xが管掌していた施設の施設長であるAは、Xに対して利用者へ配布する案内文書についてメールへの返信を求めていたが、Xから応答がなかったため、会議前にこの点についてXに確認を求めた。

 

③ 部下とのトラブル(その2)

Xは、自らが管掌する施設において退職者が出たことから、職員の採用方針を大きく変更し、 各施設の現場に採用する権限を委譲することを決定した(Xにはこのような変更を行う権限はなく、Y法人内の承認も得ていなかった)。

施設長らはこれまで採用経験がなかったことから不安の声が上がったが、Xは「人材を見極められないのは、施設における問題点等がわかっていないことと同義であるから、以降、同旨の発言をした場合には施設長として適性がないと判断する。」などと施設長に申し伝えた。

 

④ 部下とのトラブル(その3)

Xは、施設長会議において、施設長らに対し、 自己満足的な働き方は認めないなどと述べるとともに、Y法人所有のパソコンを法人の許諾の下で業務上使用していたAに対し、その場でパソコンの返還をするようきつく申し伝えた。

 

⑤ 部下とのトラブル(その4)

Aは、Xに対し、かねてからMBO(半期査定) 面談について実施を求めていたが、Xは、これを拒否した。

 

⑥ 部下とのトラブル(その5)

職員Bが、Xに対し、従前は施設長会議の議事録が公開されていたことから、施設長会議の議事録公開を求めたところ、かかる要望を拒絶するとともに、そのような要望が出るのは、施設長会議の内容をBに伝達できていないAの責任であるかのように読めるメールを送信した。

また、かかるメールには、Aを施設長から降格させることを示唆するような内容も含まれており、 施設の他の職員のアドレスにも送信されてい た。

 

かかるメールを受けて、Aは動揺し、Y法人のハラスメントホットラインに「Xの攻撃的・威圧的態度から会うことにもとても気が重い」などの相談を持ち掛けた。

 

裁判所の判断

試用期間経過後の本採用拒否の要件について

裁判所は、本採用拒否について、「解約権留保の趣旨目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものと解される」と判断した。

 

本件について

裁判所は、前記 1~6に記載された事実などを認定し、結論として「高いマネジメント能力が期待されて管理職として中途採用された原告につき、少なくとも(中略)他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし、協調性を欠くなどの言動のほか、履歴書に記載された点に事実に著しく反する不適切な記載があったことが認められる」とし、本採用拒否について適法と判断した。

本件のポイント

本件では、Xについて、「事業部長として高額な賃金待遇の下、即戦力の管理職として中途採用された者」であって、職員管理を含めY法人において高いマネジメント能力を発揮することが期待されたと認定し、そのような好待遇の下、即戦力として採用された者については、改善指導を当然の前提とすることは相当ではないとしています。

 

つまり、好待遇に応じたマネジメント能力を買われて入社した者については、期待値も高くなる結果、本採用拒否の法的ハードルが下がるということです。

一つの事例として参考にしてください。

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年2月5日号(vol.241)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

この記事を執筆した弁護士

弁護士 五十嵐 亮

一新総合法律事務所
弁護士 五十嵐 亮

一新総合法律事務所理事・長岡事務所所属。 2009年弁護士登録。 事故賠償チームに所属。交通事故に関するセミナー講師実績多数。 依頼者の方々に対しては、懇切丁寧なコミュニケーションを行い、よりよい解決に導けるよう心がけております。

 

 

 

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