賞与(ボーナス)を減額する場合の注意点(弁護士:五十嵐亮)

新型コロナウイルス拡大により業績が悪化

新型コロナウイルス拡大により業績が悪化している企業においては、売上を確保する策を講じると同時に、経費を削減するための措置を講じている企業も多いと思います。

 

特に、夏のボーナス時期が近付いているこの時期に、賞与の削減を検討している企業もあるかもしれません。

 

本コラムでは、賞与を削減するに際しての法的な注意点を説明したいと思います。

 

そもそも賞与とは?法的に支払い義務があるのか?

賞与とは、法律的にどのような位置づけなのでしょうか?

 

「賞与」という言葉が登場する法律の条文としては、労働基準法11条があります。

労働基準法11条には、

 

「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」

 

と定められていますが、この規定の他に、賞与の支払い義務や支払い方法について規定した法律はありません。

就業規則に必ず記載しなければならない事項(強制的記載事項)を定める労働基準法89条は、賞与を強制的記載事項としていません。

 

つまり、法律は、必ず賞与を払う必要があると定めているわけではありません。

 

 

 

企業における賞与の支払い義務(労働者から見れば賞与の支払い請求権)は、就業規則や雇用契約等において、算定基準・方法の定めがあり、その算定基準・方法によって具体的に算定がなされて初めて発生するものとされています。

 

 

通常の就業規則では、「会社の業績悪化により支給しない場合がある」といった定めがある場合が多いと思います。

このような規定を根拠に賞与を減額することは可能です。

 

賞与減額を行う場合の注意点は?

賞与には、色々な性質があり、就業規則における賞与の定め方も事業所ごとに様々です。

 

まずは、利益分配的な性質です。

就業規則に定められた賞与制度につき、利益分配的な性質が強く(業績連動型賞与の場合)、実際にそのような運用がなされている場合には、利益がないこと(または赤字であること)を明確に説明できれば、賞与を支払わない(または減額する)という理屈が通りやすいと思いますし、従業員の納得も得られやすいと思います。

 

他方、賞与には、賃金の後払い的性質や従業員の生活の補てん的性質もあります。

「基本給×●か月分」といったような定額的な定め方の賞与制度は、この性質が強いといえます。

 

このような賞与制度を採っている場合には、「賞与は定額で支払われる」という従業員の賞与に対する期待感が高く、経営者側も損益分岐点を意識せずに漫然と賞与を支払ってきた傾向にあることから、より慎重に説明する必要があると考えられます。

 

このように、定額制の賞与制度は、算定に手間がかからない点ではメリットがありますが、業績が不調になった場合には、デメリットがあります。

 

 

アフターコロナに備えて、賞与制度の在り方を見直すことも一つの選択となるでしょう。

 

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この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。