2020.4.22
緊急事態宣言の法的根拠とその内容(弁護士:下山田聖)
全世界で蔓延している新型コロナウイルス。
令和2年4月7日には,一都6府県に、同16日には、他のすべての道府県を対象に「緊急事態宣言」が出されましたが、これはどのような法的根拠に基づいているのでしょうか。
緊急事態宣言が発令されるまでの流れ
まず、大前提として、行政の側が、自由にこのような宣言を出せるわけではありません。
「法律による行政の原理」というものがありますので、行政は、国民による選挙を経た国会が制定した法律に根拠がなければ、活動することはできません。
「緊急事態宣言」の法的根拠となっているのは、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下単に「法」といいます。)32条1項です。
条文を見ると、
① 「政府対策本部長」は、
② 「新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。〔略〕)」が、
③ 「国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、またはそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態」(これが「新型インフルエンザ等緊急事態」と定義されています。)が発生したと認めるときは、
④ 当該緊急事態が発生した旨及び、その「期間」、措置実施「区域」、緊急事態の「概要」を公示し、国会に報告するものとする、
と規定しています。
法32条1項は、法律で大枠を定め,細かい運用ルール等は、「政令」(「新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令」の名称)で内閣が定めるという構造になっています。
営業自粛要請について
さて、上の①から④をよくよく読むと、政府は、緊急事態になったこと、その期間、措置をする区域、その緊急事態の概要を決めるというだけで、営業自粛要請をどうするか等の具体的措置の決定権限は認められていません。
具体的措置については、法45条に規定があります。
これによれば、「特定都道府県知事」(端的にいうと緊急事態宣言の対象となった都道府県の知事です。〔法38条1項〕)が、当該都道府県の住民に対して、様々な「新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力」を「要請」したり(同条1項)、施設管理者等に対して施設利用やイベント開催の制限・停止を「要請」したり(同条2項)「することができる」としています。
あくまでも、「……必要な協力を要請することができる。」という規定ぶりであり、休業等を強制する権限までは認められていないことに注意が必要です
。
なぜ休業等を強制できる立法になっていないのかという点は、立法政策の問題であって、法律自体から直接これを読み取ることはできません。
ただ、一般論としては、国民の権利を制限する内容の法律の制定及びその運用にあたっては、手続上も慎重であることが要求されます。
休業の強制ができるということになれば、対象者は収入が得られなくなり、これ以上ないくらいの生活への打撃です。
最終的に強制を予定しているとなれば、それに至るまでの手続(感染症に関する詳細な調査、対象者へのヒアリング等)を慎重にせざるを得ず、結果的に迅速性が損なわれることが予想されます。
また、強制した場合には、実際に休業した場合の損失補償の問題も出てくるでしょう。
自粛要請について、個々の国民に判断を委ねているという点の評価は様々だと思いますが、現行法の解釈としては、強制は困難と言わざるをえないでしょう。
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