期待できる??新型コロナウイルス感染症対応休業支援金(弁護士:渡辺伸樹)

1 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金について

令和2年6月12日に成立した雇用保険法の臨時特例法の中で、新型コロナウイルス感染症等の影響により休業させられた労働者のうち、休業中に賃金を受けることができなかった労働者に対して休業支援金を支給できるようにする制度(以下「本件給付制度」)が新たに盛り込まれました。

 

対象は中小企業(※)の労働者で、休業日数に応じて休業前の賃金の80%(月額上限33万円)を支給できるようになる見込みです。

正社員だけでなくアルバイト・パートなどの労働者も対象となります。

 

政府は7月中の運用開始を目指しているということですが、具体的な申請手続については本稿執筆時点(令和2年6月24)で明らかにされておらず、今後の発表を待つ必要があります。

 

【参考】

~厚生労働省資料:新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための雇用保険法の臨時特例等に関する法律(令和2年法律第54号)~https://www.mhlw.go.jp/content/000639623.pdf

 

2 本件給付制度の特徴

本件給付制度は、労働者が直接申請し、労働者に直接金銭が支払われる制度であることに特徴があります。

 

これまでは、労働者に休業手当を支払った使用者に対し、国が雇用調整助成金を支払うことで労働者の保護を間接的に促してきましたが、そもそも使用者から労働者に休業手当が支払われないケースが相次ぎ、雇用調整助成金の制度だけでは十分な労働者の保護を図れていない実態があったことが本件給付制度の設けられた背景にあります。

 

3 事業者(使用者)側で留意すべきこと

本件給付制度に対しては、休業手当の不払いに拍車をかけることになるという批判もあるところですが、使用者側としては当然ながら本件給付制度ができたことを理由に休業手当を支払わなくてよくなるわけではありません。

 

本件給付制度はあくまでも労働者のセーフティネットです。

使用者が、不可抗力以外の理由(使用者の責めに帰すべき事由)により労働者を休業させる場合には、休業期間中、平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならないことはこれまでと変わりはなく、これに違反した場合には罰則の対象となることも変わりありません。

 

様々な問題が指摘されていた雇用調整助成金の制度も、この間に手続の簡素化、助成額の上限の引上げ及び助成率の拡充などがすすめられています。

本年6月22日時点で、累計支給申請件数は23万件を超え、累計支給決定件数も14万件を超えているということです(数値は厚生労働省ホームページより引用)。

 

使用者の立場としては、本件給付制度の運用が開始された後も、休業手当に関する考え方やスタンスを変えることなく、不可抗力以外の理由により労働者を休業させる場合には、雇用調整助成金を活用して休業手当の支払いを適切に行っていくことが重要といえます。

 

※中小企業の基準

製造業その他 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
卸売業 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
小売業 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
サービス業 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

 

 

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 渡辺 伸樹

渡辺 伸樹
(わたなべ のぶき)

一新総合法律事務所 
理事/長野事務所長/弁護士

出身地:新潟県上越市
出身大学:中央大学法科大学院修了
主な取扱分野は、交通事故、、労災、企業法務。そのほか、幅広い分野に精通しています。 保険代理店向けに、顧客対応力アップを目的として「弁護士費用保険の説明や活用方法」について解説するセミナー講師を多数務めた実績があります。