2019.10.18
相撲界でまたも暴力事案が発生!!(弁護士:今井慶貴)
日本相撲協会は、10月16日、立呼出の拓郎が、10月8日の新潟・糸魚川巡業で、後輩の呼出2人に対し暴力をふるい、15日に本人から退職届が出されたと発表しました。

十両・貴ノ富士が、付け人への二度目の暴力により、日本相撲協会から自主的引退を勧告されて、抵抗する姿勢を見せつつも、最終的に引退に追い込まれたのはつい先日10月11日のこと。
その渦中の出来事であり、驚きを隠せませんが、その”暴力”というのは次のようなものだったそうです。
拓郎は、巡業会場の体育館のイス席(観客席)に座り弁当を食べていた序二段格の呼出に対し、
「なぜ、こんなところで食事をしているんだ」
と口頭で注意し、頭部をこぶしで1回殴り、近くにいた幕下格呼出にも
「兄弟子が見ていて、なぜ注意しないのか。しっかり見てやらんか」
と注意しながら、背中を1回たたいたということです。
2人に怪我はなかったものの、幕下格呼出が協会職員に報告したことから、今回の事案が発覚。当事者の事情聴取により大筋が確認され、事情聴取の場で拓郎が2人に謝罪。拓郎は自宅謹慎という暫定措置がとられ、後日、責任を感じた拓郎が退職届を提出。
協会は今後、コンプライアンス委員会の調査を待って対応を決めるということです。
問題が発生した時期や経緯からすると、拓郎は後輩を指導する意図で上記の行いをしたものであり、問題となるような暴力という意識はなかったのではないかと推測されます。
あくまで推測ですが、怪我をしない程度のゲンコツや叩きは指導の範囲内という感覚があったのではないでしょうか。
先日の貴ノ富士が記者会見で
「暴力をするなとはいわれたが、どのように後輩を指導したらいいのか教わっていない」
という趣旨のことを主張していました。
無理な弁解ではありますが、同時に一面の真実を含んでいることも否定できないように思います。
つい最近まで、「無理偏に拳骨(むりへんにげんこつ)」 と書いて 「兄弟子」 と読ませていた相撲社会が、急に「暴力はダメ!絶対!」となりました。しかし、体に染みついた習慣はすぐには変わらないのかもしれません。
そして、貴ノ富士の付け人も今回の呼出も、この程度の暴力であったとしても被害申告するようになった、ということです。被害者側の意識の方が、むしろ一般社会の風潮に敏感であるといえそうです。
このような意識のギャップは、相撲社会に限らず、あらゆる職場において、ハラスメントの種として潜在していると思った方がよいでしょう。自戒したいものです。
弁護士 今井慶貴