2021.12.23

コロナ禍での経営不振を理由とした 整理解雇を違法とした事例 ~福岡地裁令和 3 年 3月9日決定(労働判例 1244号 31頁)~(弁護士:五十嵐 亮)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

事案の概要

当事者

Y社は、特定旅客自動車運送事業等(主に貸切観光バス事業)を営む会社であり、福岡県内所在の本社のほか、鹿児島県所在の支店を置いていた。


令和2年3月当時、Y社の従業員は合計20名であり、本社所属の従業員は13名(運転手10名、運行管理者2名、アルバイト1名)、鹿児島支店所属の従業員は7名(運転手5名、運行管理者2名)であった。


Xは、Y社の従業員であり、バスの運転手として稼働していた者である。

整理解雇に至る経過

令和2年2月中旬以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、海外からの日本への観光客が激減したことによって貸切バスの運行事業が全くできなくなった。


令和2年2月から5月にかけてのY社の売上げは、前年同月比で85%から95%の減少となった。


令和2年2月頃、アルバイト従業員を2名解雇し、契約従業員を日払いに変更したほか、全従業員に対し、同年5月以降の公休を前倒しで取得するよう要請した。


Y社は、5000万円の融資を受けるとともに、バスリース会社と交渉してリース代金の支払猶予を受けたほか、同年2月以降の役員報酬を50%カットするなどの金策を行った。


令和2年3月17日、Y社は、本社において全従業員が参加するミーティング(以下「本件ミーティング」という)を開催し、次の内容を従業員に説明した。

①3月の売上げが前年同月比で90%以上減少していること
②3月の売上げが従業員の社会保険料の支払い額に満たないこと
③今後貸切観光バスの仕事がないために休業してもらうこと
④人員削減が必要になること(削減人数は明言せず)
⑤新たに福岡~大阪間の1日1便の夜行バス運行を計画していること
⑥夜行バスの運行に協力してもらいたいこと

本件ミーティングにおいて、Y社社長が、運転手らに対し、夜行バスの運行に協力してもよい者は挙手するよう促したところ、15名の運転手のうち挙手したのは3名のみであった(Xは挙手しなかった)。


Y社は、令和2年3月18日、幹部職員による緊急会議を行い、人員削減をしなければ5月には廃業になるとして、運転手3名の人員削減を行うこととし、夜行バスの運行を希望しなかった者の中から、Xを含む3名を整理解雇することを決めた(以下「本件整理解雇」という)。

本件の争点

本件の争点は、主にY社がXらに対して行った本件整理解雇の有効性である

裁判所の判断

裁判所は、本件整理解雇について、人員削減の必要性があったことは認めたが、以下の理由により、本件整理解雇は、客観的な合理性を欠き社会通念上相当とはいえないことから無効であると判断した。

本件ミーティングにおいて、人員削減の規模や人選基準について説明をしていない
Xらを解雇する前段階として希望退職者募集等の対応をとっていない
解雇対象者から意見聴取を行っていない
本件ミーティングにおいて夜行バスの事業計画を十分に説明したとは認められず、夜行バスへの協力の意向確認も突然であるから、本件ミーティングの場で挙手しなかったことをもって協力意思がないと即断することは人選の方法として合理的とは言い難い

本件のポイント

整理解雇の有効性は、
①人員削減の必要性
②解雇回避努力を尽くしたかどうか
③人選は合理的か
④解雇の理由等について説明を尽くしたか

という4つの要素を総合的に判断します。

裁判所は、新型コロナウイルスの影響により観光バス事業が休止に追い込まれ、売上げが大幅に減少したことから、①人員削減の必要性については、認めています。


②の解雇回避努力については、過去の裁判例によれば、新規採用を停止、希望退職者の募集、役員や従業員の報酬カット、解雇者に対する退職金の上乗せ等をしているかどうかについて検討されています。


裁判所は、本件では、希望退職者の募集を行っていないことを指摘していますが、希望退職者募集は、経営再建のために必要な人材が流出する恐れがあることから、会社にどこまで求めるか(すべての希望者の退職に応じなければ
ならないのか)という点については判断が難しいですが、本件のように希望退職者募集を全くせずに整理解雇に踏み切ることは、違法とされるリスクが大きいでしょう。


そして、③・④の点ですが、裁判所は、人選の基準を説明していないこと、本件ミーティングにおいて挙手をしなかったことだけでは、人選の基準としては不十分であり、その説明も不十分と判断しているようです。


本件の裁判例をみた印象として、結論としてはY社にとって厳しいと思う反面、裁判所は上記の4つの要素による基準を忠実に判断しています。

もう少し4つの要素に沿った形で整理解雇を実施していれば、有効になった可能性もあったのではないかと思われます。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年10月5日号(vol.261)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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