2020.6.4
ネット中傷問題~発信者特定へのハードルは高い~(弁護士:今井慶貴)
ネットの誹謗中傷問題に対する関心が高まっています
フジテレビの「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの女性がSNSの誹謗中傷を苦にして5/23に亡くなられたことを受けて、ネットの誹謗中傷問題に対する関心が高まっています。
現在のプロバイダ責任制限法は、ネット上に匿名で権利侵害情報が投稿された場合、被害者が損害賠償請求をする相手方を特定するために、発信者関連の情報開示を請求できることを定めています。
発信者関連の情報開示するには?
流れとしては、第1段階で、掲示板やSNSの管理者(コンテンツプロバイダ)に特定の書込についてのIPアドレスやタイムスタンプの開示を求めます。
第2段階で、書込者の端末から掲示板等に接続した際に利用した携帯電話会社その他のプロバイダ(アクセスプロバイダ)に第1段階の開示情報をもとに契約者情報(氏名、住所等)の開示を求めます。
実際に開示請求をすると、プロバイダ側から「権利の侵害が明白でない」との理由から開示されないケースも多く、その場合にはプロバイダを被告とした民事訴訟を提起しなければなりません。
加えて、アクセスログを保存するための仮処分が必要な場合もあり、多段階の法的手続を要し、当然ながら時間も弁護士費用もかかることになるため、そうそう気軽に行えるものではありません。
それ以前に、掲示板等の管理者がはっきりしない場合や海外に拠点を置く場合もあり、また、技術的に書込者の特定が困難な場合もあるため、超えるべきハードルは高いといえます。
「表現の自由」と「人権」
高市早苗総務相は、5/26の記者会見で、インターネット上の発信者の特定を容易にし、悪意のある投稿を抑止するために、年内に改正案を取りまとめる方針を示したということです。
「表現の自由」は、自由な社会の基礎となる基本的人権ではありますが、個人の名誉やプライバシーといった他の人権との妥当な調和が必要です。
よりよい制度に向けた見直しを期待したいと思います。