2019.10.31
脱税と刑事処分について~チュートリアル徳井さんの申告漏れ問題をザックリ解説~(弁護士:渡辺伸樹)
お笑いコンビ・チュートリアルの徳井さんが代表を務める会社が国税局から合計1億円以上の申告漏れを指摘されていたことが発覚した旨の報道がありました。
この報道を受けて、インターネット上では、本年2月に法人税法違反の疑いで逮捕され、その後有罪判決を受けた健康食品会社社長(青汁王子)のケースと比較して、
「なんで徳井さんは脱税で刑事処分を受けないの??」
という疑問の声が聞かれます。
今回は、脱税と刑事処分について簡単に解説したいと思います。
脱税と刑事処分の関係とは?
申告漏れ、所得隠しなどにより、ルールに従った納税手続を行わなかった場合、その内容に応じて、過少申告加算税、重加算税などのペナルティが課されることがあることはご存知のとおりです。
もっとも、これはあくまでも行政上のペナルティであり、刑事処分(刑事罰)ではありません。
脱税の罪は、「偽りその他不正の行為により」所得税や法人税を免れ、あるいは所得税や法人税の還付を受けた場合に限り成立する犯罪であり(所得税法第238条、法人税法第159条)、行政上のペナルティの対象となる事案よりも範囲が限定されています。
実際のところ、脱税の罪で刑事処分(刑事罰)を受ける案件は、ごく少数に限られています。
脱税の罪で刑事処分されるまでの過程と現状
脱税の罪で刑事処分が科されるには、
①国税局査察部(通称マルサ)による査察調査→
②検察庁への告発→
③起訴→
④刑事裁判
というプロセスをたどります。
東京国税局の統計資料によれば、平成29年度において①国税局査察部が査察調査に着手した件数は63件で、そのうち平成29年度中に処理し検察庁に告発した件数は37件にとどまります。
検察庁に告発された後、不起訴になるケースも一定数ありますので、実際に刑事処分を受けるケースはさらに限定されます。
脱税額に着目すると、平成29年度に検察庁に告発された事案1件あたりの脱税額は1億100万円ということです。
すなわち、脱税額が億単位またはそれに近い額に上るかどうかが刑事事件化されるか否かの一つのポイントといえます。
なお、申告漏れ額=脱税額ではありませんので、この点は混同しないよう注意が必要です。
チュートリアル徳井さんが、刑事処分されない理由のまとめ
チュートリアル徳井さんのケースについては、「偽りその他不正の行為により」という脱税の罪の成立要件を満たさないと考えられたか、要件を満たすとしても過去の処分例と比較して刑事処分を課すほどの金額でないこと等から、刑事事件として立件されていないということがいえるでしょう。