勤務中の事故~会社と従業員の責任分担は?(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

 

第35回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

 

今回のテーマは、勤務中の事故~会社と従業員の責任分担は?です

 

その1.使用者責任をまず理解する。 

 

従業員が勤務中の事故等により第三者に損害を負わせた場合、その第三者に対しては、従業員個人が損害賠償責任を負うとともに、使用者も「使用者責任」として賠償責任を負うことが原則です。 

 

これは、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあること(報償責任)や、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていること(危険責任)に着目し、損害の公平な分担を図ったものです。 

 

そして、使用者が賠償責任を果たした場合には被用者に対して求償することができますが、判例は、従来から「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に限定されるものとし、その際、「事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情」が考慮されるとしてきました。 

 

その結果、裁判例では、会社が従業員に求償できるのは、従業員に故意又は重過失がある場合に限られることが多く、重過失がある場合も損害の一部(4分の1とか2分の1)しか求償できないとされるのが一般的です。 

 

その2.従業員が先に賠償した場合は?

 

では、従業員が先に賠償した場合に会社に対して逆に負担を求めること(逆求償)ができるのでしょうか?

 

最近、最高裁がこれを認めました。 

事案は、運送大手の福山通運のトラック運転手の女性が死亡事故を起こし、遺族の一人に1500万円を賠償し、同額の支払いを会社に求めたというものです。

1審は会社に約840万円の請求を認め、2審は請求を認めませんでした。 

 

最高裁は、被用者は、諸般の事情(前記)に照らし、「損害の公平な分担という見地から相当と認められる額」について、使用者に対して求償することができると判示し、審理を高裁に差し戻しました。

使用者責任の趣旨(前記)に加えて、使用者が先に賠償した場合とで異なる結果となるのは相当ではないことを理由としたのです。 

 

なお、運送会社であれば当然トラックに任意保険を掛けているのではないか、という疑問もわきますが、福山通運では任意保険を掛けずに事故の都度、自己資金で賠償する「自家保険政策」をとっていたため、このような展開になったようです。 

 

最後に一言。

最高裁の補足意見にもあるように、具体的な負担は、会社と従業員の関係性(リスク調整能力)や従業員のモラルハザード抑止の観点も含めて決められることになります。

その理念は、 

損害の公平な分担という見地から…です。

 

ご注意

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