2024.12.25

養子縁組前の養子の子と代襲相続(弁護士 今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
理事長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第92回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。


今回のテーマは、養子縁組前の養子の子と代襲相続です。

その1.どんな裁判だったの?

最高裁第三小法廷は、先日(令和6年11月12日)養子縁組によって兄弟姉妹となった場合の代襲相続について、初判断を示しました。
同日付の日経新聞(電子版)の記事によると、原告(上告人)は神奈川県に住む30代と40代の男女、被告(被上告人)は国です。

時系列は次のとおりです。①原告の母は原告ら2人を生んだ。②原告の母は自身の伯母の養子となった。伯母には男性の実子が一人おり、男性と原告の母との関係は「いとこ」から「兄妹」になった。③原告の母が亡くなった。④その後、男性も亡くなった。

男性には子がいなかったので、原告の母が生きていれば、妹として男性の遺産を相続できました。
原告は、母を代襲して男性の遺産を相続できると主張して、男性の遺産である不動産の所有権移転登記を申請しました。

しかし、法務局は申請権限を有しない者の申請であるとして却下処分としました。

そこで、原告らは、国を被告としてこの処分の取消しを求める裁判を起こしました。

民法887条2項は、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき(中略)は、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」と規定し、兄弟姉妹についてもこの規定が準用されています(民法889条2項)。

その2.最高裁判決のロジック

今回の最高裁判決のロジックは、要約すると次のようなものです。

被相続人の直系卑属でない者は代襲相続できないとの規定の趣旨は、養子縁組前の養子の子は、被相続人との間に養子縁組による血族関係を生じない(民法727条、大審院判例)ことから、養子を代襲して相続人となることができないことを明らかにしたものである。

そうすると、兄弟姉妹について準用される同規定も、被相続人との間に養子縁組による血族関係を生じることのない養子縁組前の養子の子は、養子を代襲して相続人となることができない旨を定めたものと解される。

よって、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属ではない者は、被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることはできないと解するのが相当である。

本件の原告は、被相続人である男性と原告の母の共通する親である伯母の直系卑属でないため、代襲相続はできないという結論になりました。

最後に一言。

上記ケースとは逆に、養子縁組「後」に生まれた子については、養親とも血族関係が生じます。

そうすると、養子の子も代襲相続は可能であるという結論になることが分かりますね。

法律の論理を理解すれば、結論が導き出せる。


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