2025.7.2
公益通報への対応は慎重に!(弁護士 今井 慶貴)
※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の理事長・企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。
第98回のテーマ
この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。
気楽に楽しんでいただければ幸いです。
今回のテーマは、公益通報への対応は慎重に!です。
その1.改正公益通報者保護法が成立

本年6月、企業や官公庁で不正を内部通報した人を保護するための公益通報者保護法の改正法が成立しました。
公布から1年6カ月以内に施行となります。
今回の法改正は、企業等における公益通報への対応状況や、通報者保護を巡る国内外の動向を踏まえ、通報制度の実効性向上と通報者の保護強化を目的としています。
改正の主な柱は、以下の4点です。
第1に、企業による通報体制の整備を徹底するため、常時300人を超える労働者を雇用する事業者が「従事者」(内部通報の受付・調査・是正を主体的に行い、通報者を特定させる事項を伝達される者)を指定しない場合、指導・助言や勧告に加え、新たに命令権と、それに違反した場合の罰則が設けられました。
また、立入検査権限も追加され、報告義務違反や虚偽報告、検査拒否にも罰則が適用されるようになりました。
さらに、通報対応体制の整備に関して、労働者等への周知が事業者の義務であることも明示されました。
第2に、公益通報者の保護対象が拡大されました。
これまで保護されていなかったフリーランス(事業者と業務委託関係にある者)や、業務委託関係終了後1年以内の者も対象となり、通報を理由とする業務委託契約の解除やその他の不利益取扱いが禁止されました。
その2.通報を理由とした処分には刑事罰も!
第3に、公益通報の妨害行為への対応が強化されました。
事業者が従業員等に通報しないことを約束させたり、通報者の特定を目的とした行為を行ったりすることは、正当な理由がない限り禁止され、違反した合意等は無効とされます。
第4に、不利益な取扱いに対する抑止と救済の措置が強化されました。
通報後1年以内の解雇や懲戒は、通報を理由としたものと推定されることとなり、事業者側に立証責任が課されます。
また、通報を理由とした処分を行った場合には、個人に対する拘禁刑または罰金、法人には最高3,000万円の罰金という新たな直罰規定が設けられました。
さらに、一般職の国家公務員に対する不利益取扱いにも同様の罰則が新設され、公務分野でも保護が強化されました。
最後に一言。
今回の法改正は、公益通報制度の信頼性を高め、通報者が安心して声を上げられるようにするものです。
一方で、企業等の側からすると、対応を誤った場合には刑事罰を受けかねないという大変厳しいものとなります。某県知事のように“解釈の相違”では通らないでしょう。
~公益通報の対応は、くれぐれも慎重に!~
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