2025.4.30

転職紹介で祝い金禁止に!(弁護士 今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
理事長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第96回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。


今回のテーマは、転職紹介で祝い金禁止に!です。

その1.雇用仲介業者による「転職ころがし」

人手不足が深刻となっている近年、企業が人材を中途採用する際、民間の仲介サービスを頼るのが主流になっています。

雇用仲介業者は、職業安定法上、具体的に転職をあっせんする「職業紹介事業」と求人サイト運営などの「募集情報等提供事業」がありますが、2022年の厚生労働省の調査によると、これらによる紹介が約4割で、ハローワークを通じた公的な紹介の倍以上に及んだということです。特に求人サイトなどを経由する転職が多くなっています。

ところが、仲介業者の一部で、一度仲介した転職者に再接近して再転職を勧め、再転職先からも紹介料を得て、再転職者には「就職祝い金」を支払って後押しする手法が広がりました。

企業側からすれば、採用時には高額な紹介手数料を支払ったのに、人材定着を妨げるような「転職ころがし」には、不信感を抱いて当然です。

こうした事態を問題視した厚労省は、2018年には職業紹介事業者に関する指針を改正し、無期雇用者を紹介した後の2年間の再勧奨を禁止したうえ、2021年には祝い金など金銭提供自体も禁じました。

しかし、求人サイトなどの募集情報提供事業は対象外でした。

また、この間行われた調査では多くのルール違反が見つかりました。

その2.祝い金は全面禁止に!

事態を深刻に受け止めた厚労省は、職業紹介事業の許可条件に通達で「祝い金提供禁止」と「2年以内の転職勧奨禁止」を追加する改正を本年1月に施行し、既存業者に対し、行政指導の無視が続く場合は許可取消しまで強く踏み込むという方針を取ることになりました。

また、本年4月からは、求人サイト運営事業者も規制対象としたことにより、無期雇用者への祝い金は原則全面禁止となりました。

さらに、厚労省は職業紹介事業と募集情報等提供事業の両方に、利用料金や違約金の発生条件、金額をわかりやすく明示することも義務付けました。

今回の規制強化には、業界団体も理解を示しているようです。

深刻な人手不足の中で、健全な転職市場の形成を妨げて企業から搾取するような行いが蔓延しては業界自体が信頼を失いかねないことからすれば、当然といえるでしょう。

最後に一言。

転職者の目線で見た場合、より良い条件の職場を求めるのはよいとしても、目先の金銭にとらわれて転職を繰り返せば、「そういう人」だと評価されてしまうリスクがあります。

仲介業者だけでなく、労働者も自分の信用を大事にしたいものです。

松下幸之助曰く…

~信用は無形の力、無形の富~


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