2025.1.30

異体字は気にせずともOK?(弁護士 今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
理事長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第93回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。


今回のテーマは、異体字は気にせずともOK?です。

その1.行政で使う文字を70万→7万字に

最近、市区町村の基幹的な業務で使う文字の基準が2026年度をメドに統一されるというニュースがありました。

現在、政府は全自治体の税や医療・介護など主要業務のシステムを国が定めた標準仕様のシステムに移行する構想を進めていますが、その際に障壁となるのが自治体ごとに異なる漢字の独自ルールでした。

戸籍事務を取り扱う自治体では、わずかな「字形」(文字の形状)の違いをもとに、通常のコンピューターでは扱えない文字を「外字」として登録しているため、全国の戸籍システムで使われる文字はひらがなやカタカナも含め約70万にのぼるとされています。

こうした外字の対応は非効率であるとともに、システム管理業者の「ベンダーロックイン」の温床にもなっていました。

そこで、デジタル庁は2024年3月、主要20業務で使う文字として約7万文字で構成する「行政事務標準文字」を策定しました。

集約の基本方針として「字形」は異なっても、「字体」(文字の形の基本となる骨組み)が同じものを同じ文字と定めたということです。

字体が異なる文字、例えば、ワタナベさんの「辺」「邉」「邊」の区別は残されます。

その2.裁判文書はさらに進んで

裁判所は、2024年7月から「e事件管理システム」を導入しました。

ここでは使用可能な文字が約1万文字の範囲に限定されており、事務を合理化する趣旨からも、裁判所では、民事・家事分野の裁判事務処理に当たっては、「字種」(同一の文字)が同じ文字は、「字形」や「字体」の違いにかかわらず、区別せずに同一のものと取り扱うことを原則とし、裁判文書の作成に当たって、裁判事務システム又は裁判所職員のパソコンでそれぞれ標準的に入力することができる範囲の文字のみを使用することが原則とされました。

その結果、当事者の氏名等について、裁判文書に記載された事項と登記や供託書、戸籍等に記載又は記録されている事項とで、同一の文字(同一の字種)ではあるものの、字形や字体が異なるもの(例えば、「高」と「髙」など)が用いられる場合があり、そのような場合であっても、戸籍や登記、供託手続等における支障は生じないということです。

最後に一言。

世の中の難しい漢字のワタナベさんも簡単な「辺」を書かれても気にしない寛大な方が大半でしょうが、パソコンに文字が入っている限り、極力オリジナルの字体で書きたいですね。

氏名の漢字は、アイデンティティの一部


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