契約書の損害賠償条項を考える(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第85回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、契約書の損害賠償条項を考えるです。

その1.契約書のリーガル・チェックとは?

最近は“予防法務”も定着してきたのか、日常の弁護士業務の中で顧問先企業の契約書のリーガル・チェックを行うことが多いです。

ちなみに、それ以外に多いのが労務関係の相談ごとです。

契約書のリーガル・チェックでは、誤記や条ずれといった形式的問題の指摘や、強行規定(特約によって排除できない法令の定め)との抵触の有無といった契約の適法性・有効性に関する検証は必須ですが、より実践的な意味合いとしては、クライアントの立場から有利・不利を判断して、契約相手に修正要望を出した方がよい箇所を指摘することにあるといえます。

その場合に、何をもって有利・不利を判断するかといえば、一般的な契約条項のひな型(行政や業界団体からモデル契約が示されている類型もあります。)との比較というのもありますが、より客観的な基準としては、任意規定(法令の規定があっても、それと異なる合意をした場合には合意優先となる規定)との比較があります。

任意規定とはいわば“法令のデフォルト・ルール”であり、それと比べて有利か、不利かを見きわめながら、折り合える地点を探していきます。

その2.損害賠償条項を考える

損害賠償の範囲についての民法のデフォルト・ルールは、民法416条の「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。」「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」です。

これに対し、損害賠償の範囲を契約で限定する意図で、賠償の範囲を「現実に生じた直接かつ通常の損害に限る」などとする契約条項が見受けられます。

英文契約書に由来する条項のようですが、それゆえに日本の民法との関係には曖昧なところがあります。

例えば、「現実の損害」とは、非現実の損害=懲罰的賠償責任を除外した填補賠償責任のことですが、もともと日本では懲罰的賠償は認められておらず、逸失利益(得られたであろう利益)を除く趣旨であるとも直ちには解釈できません。

直接損害と間接損害、通常損害と特別損害といった概念についても、具体的な意味は必ずしも理解されないまま使われているかもしれません。

最後に一言。

契約書のリーガル・チェックは、AIによるレビューが相当なレベルに達していますが、相手方とのやりとりという場面でみると、企業ごとで使用されるひな型や修正要望への反応などで個性が表れて趣深いところがあります。

契約書は一つのコミュニケーションである。


一新総合法律事務所では、「契約書のリーガルチェック」「取引先とのトラブル」「事業承継」「消費者クレーム対応」「債権回収」「コンプライアンス」「労務問題」など、企業のお悩みに対応いたします。
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