性犯罪に関する法改正の影響は?(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第77回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、性犯罪に関する法改正の影響は?です。

その1.強制わいせつ罪が不同意わいせつ罪に

今年6月、性犯罪関係の改正法(刑法と刑事訴訟法)と新法(性的姿態撮影等処罰法)が成立し、一部を除き7月13日から施行されています。

今回の改正法では、強制わいせつ罪・強制性交等罪が、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪に名称が変わると共に、内容的にも、大きく以下の4点、①強制わいせつ罪等における「暴行」「脅迫」要件、準強制わいせつ罪等における「心神喪失」「抗拒不能」要件の改正、②性交同意年齢の引上げ(13歳未満から16歳未満に)、③身体の一部又は物を挿入する行為の取扱いの見直し(性交等に含める)、④配偶者間において不同意性交罪等が成立することの明確化の改正がなされました。

性犯罪の本質的な要素は、「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」であることです。

従来は、これを「暴行」「脅迫」「心神喪失」「抗拒不能」という要件で判断していましたが、それらの要件の解釈により犯罪の成否の判断にばらつきが生じ、成立範囲が限定的に解されるとの懸念が示されていました。

そこで要件を改めて「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という表現を用いて統一的な要件とするとともに、原因となり得る行為や事由についても具体的に列挙する改正がなされました。

その2.要件の明確化により処罰の強化に

具体的に列挙されている行為や事由としては、①暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと、②心身の障害を生じさせること又はそれがあること、③アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること、④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること、⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと、⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること、⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること、⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること、となります。

現在、社会問題となっている故ジャニー喜多川氏による過去の性加害について、外部専門家における調査報告書で認定された事実を改正法にあてはめると、年齢の点のほかにも、上記⑤⑥⑧の要件に該当する可能性があるように思われます。

最後に一言。

改めて、相手を尊重しない軽率な行動が、相手を傷つけ、自らを犯罪の被疑者という立場に陥らせかねないことに留意が必要です。

瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず。


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