人件費の転嫁に向けた企業の行動指針(弁護士:今井 慶貴)
※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。
第80回のテーマ
この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。
気楽に楽しんでいただければ幸いです。
今回のテーマは、人件費の転嫁に向けた企業の行動指針です。
その1.中小企業の賃上げのための指針
本年11月、内閣官房と公正取引委員会が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しました。
背景としては、令和5年の春闘における賃上げ率は約30年ぶりの高い伸びとなったものの、急激な物価上昇に対して賃金の上昇が追いついていない現状にあり、日本の雇用の7割を占める中小企業がその原資を確保できる取引環境を整備することが重要であるという観点があります。
公正取引委員会は、労務費の占める割合が高い業種を重点的な調査対象として労務費の価格転嫁の状況を調査した結果、価格転嫁を認めてもらえたとする声がある一方で、“労務費の上昇分は受注者の生産性や効率性の向上を図ることで吸収すべき問題であるという意識が発注者に根強くある”“交渉の過程で発注者から労務費の上昇に関する詳細な説明・資料の提出が求められる”“発注者との今後の取引関係に悪影響(転注や失注など)が及ぶおそれがある”等の理由で労務費の価格転嫁の要請をすることは難しいとの声があり、それを踏まえて指針をとりまとめました。
その2.行動指針のポイント
行動指針では、発注者・受注者それぞれに求められる行動が示されています。
発注者には、「経営トップが関与する」「発注者から協議の場を設ける」「説明や根拠資料を求める場合には公表資料に基づくものとする」「直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させる」「受注者から労務費の上昇を理由とした価格転嫁を求められたら協議のテーブルにつく」「労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしない」「必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案する」、受注者には、「国・地方公共団体、中小企業の支援機関などに相談するなどして積極的に情報を収集して交渉に臨む」「根拠資料としては公表資料を用いる」「本指針に記載の事例を参考に適切なタイミングで自ら発注者に価格転嫁を求める」、双方に共通して、「定期的にコミュニケーションをとる機会を設ける」「価格交渉の記録を作成して双方が保管する」といったことが挙げられています。
最後に一言。
日本では、ここ30年くらい、「物価も賃金も動かない」というマインドが根強く、いわば“ノルム(社会規範)”となっていたとも言われていますが、ここに来て、ようやく変化の兆しが出てきた感じがします。
「値上げは悪」のマインドを変えていく
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