M&Aで騙されないために!

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」を引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第86回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、M&Aで騙されないために!です。

その1.悪質投資会社の被害者が続出

昨今、中小企業のM&Aが身近になり、私も顧問先企業の案件を中心に、買い手や売り手のアドバイザーをするケースが増えました。

関与する案件には、M&A仲介会社が入るケースも入らないケースもありますが、幸いにも、M&A実行後に大きなトラブルになったケースは聞いていません。

そんな中、ネット上でM&Aに関する気になる報道を見つけました。5月3日には東京新聞で「『M&A』名目で中小企業に入り込みカネを巻き上げ…悪質投資会社の手口とは 全国で相次ぐ被害」という記事が、5月24日には朝日新聞で「中小企業庁『M&Aトラブル』実態把握へ、不適切行為に注意喚起」という記事がありました。

東京新聞の記事によると、問題となっているのは、東京都千代田区の投資会社「ルシアンホールディングス」という会社であり、「被害者の会」によると、2021~23年にかけて全国の様々な業種の37社が被害に遭ったということです。

ある会社の60代の経営者は、経営不振から売却を考えていたところ、仲介業者からルシアンを紹介されて株式を売却しました。

ところが、会社の連帯保証人を新経営陣に切り替えてもらえず、ルシアン役員は高額の役員報酬をとり、従業員から借りた金を踏み倒し、2か月分の従業員給与を未払いにしたまま消息を絶ったということです。

その2.問われるM&A仲介会社のあり方

朝日新聞の記事は、中小企業庁が報道などを受け、トラブルが相次ぐ買い手企業を売り手側に紹介したM&A仲介業者などへの聞き取りを始めたことを紹介しています。

M&A仲介業者が買い手企業による契約不履行などのトラブルを把握しながら、そのことを新たな売り手側に伝えず取引を進めれば、利益相反リスクへの対応などを定めた指針に反し、M&A支援機関登録制度の登録を取り消される場合がありうるということです。

そもそも、M&A仲介会社は、M&Aが成立することで高額の報酬を受けるビジネスモデルであるうえ(買い手と売り手の両方から仲介手数料を受け取ることも可能)、仲介契約上、成立後のトラブルには基本的に責任を負わないとしています。

売り手は1回限りのお付き合いですが、何度も買い手になってくれる顧客の方を向きがちとなったとしても不思議ではありません。

最後に一言。

今後、M&A仲介業者への規制は強化されるかもしれませんが、いずれにせよ、M&Aの当事者になろうという経営者は、仲介会社の立ち位置もよく理解して、それとは別に独立した相談相手を持つことをお勧めしたいと思います。

M&Aの目的は「成約」ではない。


一新総合法律事務所では、「契約書のリーガルチェック」「取引先とのトラブル」「事業承継」「消費者クレーム対応」「債権回収」「コンプライアンス」「労務問題」など、企業のお悩みに対応いたします。
まずはお気軽にお問い合わせください。