ハラスメント窓口と弁護士倫理(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第72回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、ハラスメント窓口と弁護士倫理です。

その1.ハラスメント窓口担当から法人代理人へ

弁護士をしていると、日本弁護士連合会の機関誌である「自由と正義」が毎月送られてきます。

巻末の方に“懲戒処分の公告”の欄があり、弁護士が懲戒処分を受けた内容や理由の要旨が掲載されており、必読の箇所となっています。

さて、同誌の本年1月号にハラスメント窓口関係の懲戒処分が2件掲載されていました。

1件は、A法人からハラスメント相談窓口の担当者の代行を受任して懲戒請求者から事情を聴取した弁護士が、聴取した事実関係と同一の事実を含む事実関係に基づき懲戒請求者がA法人を被告として提起した地位確認等請求訴訟において、A法人の訴訟代理人として懲戒請求者の主張を争ったことにより、そのことを知りつつ一緒に訴訟を担当した同じ事務所の弁護士とともに、戒告となっています。

もう1件は、懲戒請求者がB法人の設置するハラスメント防止委員会に申し立てたハラスメント申立手続に係る事実調査及び法的分析を含むサポート業務の委託をB法人から受け、事実関係の調査及び法的判断を行った弁護士が、手続終了後、懲戒請求者がB法人を相手方として手続の結果に不服であることを前提に申し立てた民事調停においてB法人の代理人に就任したことによって、戒告となっています。

その2.何が問題とされたのか?

懲戒処分をした第二東京弁護士会は、弁護士職務基本規程第5条(信義誠実)や第6条(名誉と信用)の規定違反を問題とし、弁護士法に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当するとしています。

それ以上の詳細は書いていないものの、ハラスメント窓口に相談した相談者からすれば、弁護士を信頼して相談等をしたにもかかわらず、自分と対立する法人側の立場で代理人となったのは信頼を裏切られたと受け止めたものと推察されます。

どういう立場で話を聞くのかという位置づけについて認識の齟齬があったのかもしれません。

そうすると、弁護士の立場からすれば、ハラスメント窓口の担当者となる際には、将来的に相談者と法人との間で対立関係となった場合には法人側の代理人にはなれない旨を説明しておくべきだということになります。

法人としても、顧問弁護士に代理人を頼みたい場合には、窓口担当は別の事務所の弁護士に頼んだ方がよいでしょう。

最後に一言。

おそらく企業・団体としては気心の知れた顧問弁護士に相談窓口も頼みたいという希望があると思いますが、弁護士倫理の観点による制約があることをご理解ください。

弁護士も、やむなく断ることもある(心の俳句)。


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