2022.3.2

知らないうちに相続人に!?(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
理事長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第58回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。


今回のテーマは、知らないうちに相続人に!?です。

その1.知らないうちに相続人になっていた!

“相続は、死亡によって開始する。”これは民法の条文そのものですが、五・七・五のいいリズムとなっています。

親が亡くなれば相続になるのだから、知らないうちに相続人になることがあるのだろうか?と疑問に思われるかもしれません。

しかし、例えば、小さいときに親が離婚して非養育親とは音信が途絶えていることは珍しくありません。

また、亡くなった人(被相続人)が単身者で子どもがおらず、親も亡くなっている場合、兄弟姉妹が相続人になります。

また、先に兄弟姉妹が亡くなっていた場合にはその子である甥・姪が相続人になります。

おじさん・おばさんがどこにいて、どうしているかなど、ついぞ与り知らないという人も多いのではないでしょうか。


さらに、子ども全員が相続放棄することによって、兄弟姉妹や甥・姪が相続人になるというケースでは、相続放棄した人達から連絡してもらわない限り、自分が相続人になったことを知ることは事実上困難です。

ある日突然、被相続人の債権者から連絡が来て支払いを請求されることや、崩壊寸前の空き家の相続人であるとして自治体から対応を求められることは、現実に起きていることなのです。

その2.気づいた後で相続放棄できるのか?

「あなたが相続人です」と言われた場合、その時点から相続放棄はできるのでしょうか? 相続放棄は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に書類を提出して申述を受理してもらう手続きですが、民法は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」という期限を設けています。

「知った時から」ですので、気づいた後からでもすぐ動けば間に合います。

それでは、次のようなケースはどうでしょうか?父方のおじが借金を残して亡くなったが、おじの子は全員相続放棄をしたので、兄弟である父が相続人となっていた。

しかし、そのことを知らないまま(当然、おじの相続を承認も放棄もしないで)父も亡くなってしまった。

数年後、おじの債権者が、父の相続人である自分に借金を支払えと言ってきたことで、初めて自分がおじの相続人
となったことを知った。

まさに青天の霹靂…

最高裁令和元年8月9日判決は、このような場合の「自分」は、自分がおじの相続人となるのを知った時から3か月以内であればおじの相続を放棄できると判断しました。

ホッと一安心です。

最後に一言。

負の遺産を背負わされそうになっても簡単に諦めないことです。

将棋ファンの私は、昔の大山康晴十五世名人の名言が浮かびました。


助からないと思っても助かっている


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