単身の借家人“その後”の話(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

 

第52回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

 

今回のテーマは、単身の借家人“その後”の話です。

 

その1.賃貸借は終わらない!

 

昨今の世情を反映してか、賃貸住宅のオーナーや管理会社から、“単身の借家人が亡くなったが、身内の方で対応をしてもらえない”というご相談を受けることがままあります。

借りていた人が亡くなったのであれば、返してもらえばよいのではないのか?と単純に思いがちですが、賃借権は相続の対象となるので、そういうわけにはいきません。

なお、平成13年度に創設された「終身建物賃貸借制度」(「高齢者の居住の安定確保に関する法律」)があり、それであれば賃借権は相続されません

もっとも、バリアフリー基準を備え、知事の事業認可を受ける必要があることなどから、あまり普及していません。

そのため、借家人が単身者でこれといった親族もいない(疎遠である)場合には、オーナーや管理会社は、弁護士に依頼する等して借家人の相続人を調査したうえで、賃貸借を合意解約したり、賃料不払による解除通知をしなければならず、時間的にも経済的にも非常な負担となります。

また、相続人全員が相続放棄をした場合には、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てなければならず、これも非常な負担です。

 

その2.残置物の処理等に関するモデル契約

高齢の単身者については、“孤独死”だけでなく、こうした賃貸借の終了が円滑にいかないというリスクも無視できないため、オーナー側が住居の賃貸を躊躇する要因となってしまいます。

そうした問題への一つの対応として、最近、国交省と法務省から「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が公表されました。

大きく、①借家人が賃貸借契約を終了させるための代理権を受任者に委任する契約条項、②残置物を物件から搬出して廃棄する等の事務を委託する準委任契約の条
項、③賃貸借契約の①②に関連する条項からできており、モデル条文と解説を国交省のサイトから入手することができます。

受任者には、まずは推定相続人、他には高齢者の入居を手助けする「居住支援法人」や賃貸住宅の管理会社などの第三者が想定されています。

 

オーナーサイドからみると、カスタマイズしたい部分もありますが、モデル契約条項に従う限り、民法の公序良俗違反や消費者契約法違反による無効とはならないという意味で安心感があります。

 

最後に一言。

“他人に迷惑をかけたくない”と思っても、誰しも他人に迷惑を掛けずに一生を全うすることはできません。

とはいえ、残された人の負担を減らすために、死後事務を委任しておくことは、人としての配慮が感じられます。

 

「立つ鳥跡を濁さず」

 

ご注意

記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。

当事務所は、本サイト上で提供している情報に関していかなる保証もするものではありません。本サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、当事務所は一切の責任を負いません。

本サイト上に記載されている情報やURLは予告なしに変更、削除することがあります。情報の変更および削除によって何らかの損害が発生したとしても、当事務所は一切責任を負いません。