営業秘密のお土産は“毒饅頭”(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

一新総合法律事務所
弁護士 今井 慶貴

一新総合法律事務所副理事長/新潟事務所所長/企業法務チームリーダー/2000年弁護士登録

1.依頼者にとってもっとも良い解決方法は何かを、依頼者の目線と、中立的な目線の両方に立って、依頼者とともに追求する。
2.解決のための道筋は、複数の選択肢を提供して、それぞれの長短を分かりやすく説明する。
3.連絡や問合わせには、できる限り迅速に対応する。仕事の質・正確性と量・スピードを両立できるように、 日々工夫する。
4.法分野はもとより、社会の動向には常に関心をもって、新しい情報を活用して幅広い分野に対応できるよう心がける。
5.依頼者はもとより、相手方も含めた関係者それぞれの人格を尊重して、事件を良い解決に導く。

 

第51回のテーマ(2021/07/26発行 TSR情報)

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。
今回のテーマは、営業秘密のお土産は“毒饅頭”です。

その1.営業秘密の不正取得は犯罪です。

 

今年6月下旬、回転ずし店大手「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイトの社長が、自身がかつて在籍したゼンショーホールディングス傘下の「はま寿司」の売上データなどを元同僚から受け取っていたという不正競争防止法違反容疑で、カッパ・クリエイト本社が警視庁に家宅捜索されるというニュースがありました。

 

不正競争法防止法では、企業の営業秘密を不正に取得して持ち出す行為を禁止しています。

ここで問題となるのが、「営業秘密」の意義ですが、①秘密として管理されていること(秘密管理性)、②事業などに有用なこと(有用性)、③公然と知られていないこと(非公知性)の3要件を満たす情報である必要があります。

この種の相談を受ける時によく問題となるのが、①の秘密管理性です。

社内において、当該情報が秘密として位置づけられ、アクセス制限その他の適切な管理がなされていればよいのですが、そのような管理が行き届いていない場合、そもそも「営業秘密」にはあたらないと判断されてしまうおそれもありますので、注意が必要です。

 

その2.不正に取得した営業秘密の利用もダメ!

転職に伴い、営業秘密をお土産として持ってくる行為はどうでしょうか。

不正競争防止法は、「その営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為」も不正競争にあたるとしています。

 

また、「その取得した後にその営業秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないでその取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為」も不正競争になります。

取得後に不正取得を知った場合でも、その情報を使用するのはアウトです。

今年1月には、5Gに関するソフトバンクの技術情報を不正に持ち出したとして、警視庁が同社の元社員を不正競争防止法違反容疑で逮捕しています。

元社員は、持ち出しがあったとされる直後に同業の楽天モバイルに転職しており、その後、ソフトバンクが、この元社員と楽天モバイルに10億円の損害賠償などを求める民事訴訟を提起したということです。

 

最後に一言。

同業他社の営業秘密については、喉から手が出るほど欲しい情報でしょうが、不正競争とされては本末転倒です。

退社時だけでなく、入社時も営業秘密を持ち込んでいないという誓約書が必要なのかもしれません。

そこで一句、

 

「毒饅頭、食べないように、要注意!」

 

ご注意

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