建物を借りる際には抵当権にご注意を!(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

 

第41回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

 

今回のテーマは、建物を借りる際には抵当権にご注意を!です。

 

その1.競売になった場合の賃借人の運命は?

皆さんは、賃借している建物が競売された場合に、賃借権がどうなるかご存じでしょうか?実は意外と知られていないようです。

 

この点、借地借家法31条は、「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。」と定めています。

 

つまり、賃借権に基づく引渡しと物権(所有権や抵当権)の取得の先後関係によって、賃貸借契約が買受人に承継されるかどうかが決まります。

まず、建物に抵当権が設定されていない場合ですが、競売開始前からの賃借人は、そのまま賃貸借契約が買受人に承継されます。

 

 

次に、建物に抵当権が設定されている場合はどうでしょうか。

抵当権も物権の一種であり、その設定登記と賃借人の引渡しの先後によって結論が変わってきます。

抵当権の設定前からの賃借人は、そのまま賃貸借契約が買受人に承継されます。

 

しかし、抵当権の設定後の賃借人は抵当権に負けるため、競売により所有者が変わることで賃貸借契約は終了することになります。

そうすると、買受人との間で新たに賃貸借契約を締結できない限り、自分に何の落ち度もないのに、建物を明け渡さなければならなくなります。

 

その2.賃借人は救われないのか?

民法は、競売手続の開始前から使用又は収益をする者については、買受けの時から6か月間は明渡しを猶予することで、賃借人の保護を図っています。

とはいえ、あくまで明渡しの猶予であって買受人との間で賃貸借契約はありませんので、買受人に修繕を求める権利はありません。

他方で、賃料ではないものの、賃料に相当する建物使用の対価を支払わなければなりません。

 

そして、買受人に賃貸借契約が承継されないことから、賃貸人に預けていた敷金については、買受人に返還を求めることができません。

あくまで、賃貸人であった前の所有者に対して返還を求めることになりますが、競売をかけられるくらいなので資力がない可能性が高いでしょう。

ことによると買受人との新たな賃貸借契約の締結に際して再度の敷金の差入れを求められかねません。

もちろん、抵当権の設定イコール競売ではありませんが、結構なリスクであることは間違いありません。

 

最後に一言。

宅建業者は、媒介時の重要事項説明にあたっては、登記事項の内容を賃借人に説明する義務がありますので、漫然とスルーしないようにしてください。

また、宅建業者を介さない場合は自分で登記情報をとって確認しましょう。

 

「賃借人は、賃貸物件の抵当権に注意すべし!」

 

(このコラムは2020年9月28日発行のTSR情報に掲載されたものです。)

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