残業代請求で倒産も?(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

一新総合法律事務所
弁護士 今井 慶貴

一新総合法律事務所副理事長/新潟事務所所長/企業法務チームリーダー/2000年弁護士登録

1.依頼者にとってもっとも良い解決方法は何かを、依頼者の目線と、中立的な目線の両方に立って、依頼者とともに追求する。
2.解決のための道筋は、複数の選択肢を提供して、それぞれの長短を分かりやすく説明する。
3.連絡や問合わせには、できる限り迅速に対応する。仕事の質・正確性と量・スピードを両立できるように、 日々工夫する。
4.法分野はもとより、社会の動向には常に関心をもって、新しい情報を活用して幅広い分野に対応できるよう心がける。
5.依頼者はもとより、相手方も含めた関係者それぞれの人格を尊重して、事件を良い解決に導く。

 

今月のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

 

今回のテーマは、賃金請求権の消滅時効期間が伸びた!です。

 

その1.賃金請求権の消滅時効期間が伸びた!

今年(令和2年)4月1日より、改正民法が施行されました。

皆さんも、消滅時効について大きな改正があったことはご存じかもしれません。

 

 

改正民法により、一般の債権の消滅時効期間は、①債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間、または②権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間となりました。

 

労働関係に基づく債権については、改正前民法では、月又はこれより短い期間によって定めた使用人の給料についての消滅時効期間は1年間とされていましたが、労働者を保護するため、労働基準法は、賃金や災害補償その他の請求権は2年間、退職手当の請求権は5年間と民法よりも長くしていました。

 

改正民法で、使用人の給料を含む職業別の短期消滅時効は廃止され、上記した一般の債権の規定に統合されました。

その結果、労基法の賃金請求権等の時効期間は、民法の規定よりも労働者の保護に欠けるものとなってしまいました。

 

そこで、公労使の協議の結果、賃金請求権の消滅時効期間(+記録の保存期間、付加金の請求期間)を5年間(当分の間は3年間)とする労基法改正が成立し、4月1日から施行されました。

災害補償請求権や年次有給休暇請求権が2年間、退職手当請求権が5年間であることは変わりません。

 

その2.残業代請求の恐ろしさ

さて、3年の時効期間については、施行日以降に支払期日が到来する賃金請求権から適用されるので、施行日から3年分遡ることができるわけではありません。

とはいえ、将来に向けて3年分の残業代請求が見込まれるうえ、3年はあくまで「当分の間」であるため、施行5年経過後の見直しの際には5年となる可能性もあります。

 

これまでの2年分の未払残業代でも、その金額は数百万円に上ることがありました。

3年分では1.5倍、5年分では2.5倍です。さらに、複数名から請求された場合の金額は大きなものになります。

結果として、会社の経営自体が立ちゆかなくなるケースも出てきそうです。

 

現在、成功報酬制で残業代請求を呼びかける法律事務所による請求が目立って増えてきています。

かつて、サラ金の過払金請求の次は、残業代請求と言われたりもしましたが、今回の法改正はそれに拍車を掛けることは間違いありません。

 

 

最後に一言。

残業代をめぐる争いは、固定残業手当の運用や管理監督者性の問題など、法的見解の相違に基づくものも少なくありません。

リスクを最小限にするためには?

私ならこう答えます。

 

シンプルな制度設計にし、残業自体を減らす。

 

ご注意

記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。

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