2021.6.2
決定分析とオリンピック開催の是非(弁護士:今井 慶貴)
※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。
今月のテーマ(2021/05/31発行 TSR情報)
この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。
気楽に楽しんでいただければ幸いです。
今回のテーマは、決定分析とオリンピック開催の是非です。
その1.決定分析とは?
弁護士をしていると、将来不確実なことに関してクライアントに助言を与える場面にしばしば出くわします。
当然、本人はもちろん弁護士としてもそれが最善の決定となることを望みます。
一般論としては、前提となる情報をもとに、予想される成り行きとその確率を踏まえて、クライアントの価値基準を意識して意思決定をすることにより、その時点における実践可能な最善の決定ができると考えられます。
実は、そうした意思決定のプロセスをより体系的・合理的に行う方法論として、「決定分析」という技法があります。
決定分析においては、問題を「決定の木」という表記法で整理します。
私の浅い知識でざっくり説明すると、各段階における選択肢を枝分かれで表記し、それぞれの利得・経費に発生確率を掛け合わせて金銭換算したものを比較していき、最も合理的な決定を選択します。
「取り得る選択肢とその結果」「確率の分布」「利得・費用の値」についての情報が必要ですが、それぞれの情報の精度を確保することは現実問題としては難しい面があります。
とはいえ、決定過程が可視化されるという意味では有意義な手法です。
その2.オリンピック開催の是非
最近のコロナ変異株の蔓延状況等を受けて、国内の世論調査ではオリンピック中止論の方が優勢なようです。
ワクチン接種の遅れ、水際対策の不徹底、医療崩壊のおそれ等に鑑みると、オリンピックを開催した結果、いかなる状況が生じるのか全く予断を許さないと言えそうです。
本稿の執筆時点では、政府や東京都において大会中止は表だって検討されてはいないようです。
確かに、公表されている開催都市契約(IOCと東京都・JOC間で締結)をみると、契約を解除して大会を中止する権限を有するのはIOCのみであり、該当しそうな事由としては、「IOCがその単独の裁量で、本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠がある場合」が掲げられています。
しかし、政府や東京都はIOCに対する働き掛けくらいはできるはずです。
国民を守る立場から、開催と中止の各場合でのコスト面や国民の厚生・経済に与える影響の額や確率を試算し、決定過程を可視化することを通して、国民のコンセンサスを得る努力はしてもらいたいものです。
最後に一言。
今回のコロナ禍に対する政府の対応では、科学的検討よりも情緒や空気によって方針が決定され、楽観論・精神論に陥りがちな日本型組織の欠陥が出ている気がしてなりません。
歴史は繰り返す…とはならないように
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