放棄された財産はどうなる?

「弁護士今井慶貴のズバッと法談」は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士 今井 慶貴 が2017年4月より月に一度連載しているコラムです。

 

第5回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、「放棄された財産はどうなる?」です。

 

その1 相続の放棄

「親父が亡くなったが借金だらけだ」とか「自分は遺産はいらない」とかいう場合、相続人は、相続放棄ができることはご存知ですよね。

 

家庭裁判所で相続放棄が受理されると、その人は初めから相続人とならなかったものとみなされます。その結果、先順位の相続人がいなくなると、次順位の相続人が晴れて(?)相続人となります。しかし、その人も相続放棄をすることによって、最終的に相続人が誰も居なくなると、相続財産はめでたく出世して(?)相続財産法人となります

 

法人となれば、代表者が必要ですが、ほうっておいて誰かが選任してくれるわけではなく、利害関係人等が家裁に請求することで初めて相続財産管理人が選任され、通常は弁護士から選ばれます。申立人は、その人の報酬を見込んで家裁が決めた「予納金」を納める必要があります。相続財産から回収できればよいですが、見込みが立たない場合には、あえて債権者が自己負担をしてまで申立てをするかどうか、思案のしどころです。 

 

相続財産としては債務超過でも、不動産等の財産があるケースも多く、誰かがイニシアティブをとらないと何も動きません。最近よく話題になる「所有者不明土地」の相当部分は、このタイプになると思われます(もちろん、相続人が単に相続登記を怠っているケースも多いでしょうが)。

 

その2 破産財団からの放棄

破産管財人は、破産手続開始により、その時点の破産者の財産(破産財団)の管理処分権を有することになります。

 

しかし、回収コストが見合わない財産については、破産財団から放棄することがあります。よくあるのが、時価を上回る債権額の抵当権が設定されている(オーバーローンの)不動産の放棄です。管財人としては、任意売却が駄目そうな場合、年を越さないうちに(1月になると新年度の固定資産税が賦課されるため)、裁判所の許可をもらって不動産を放棄します。

 

放棄された不動産は、個人破産であれば、破産者に管理処分権が戻りますが、法人破産の場合には法人は解散して、消滅する運命にあります。代表者がいない状況となっているため、利害関係人等が申立人となって、任意売却の場合には清算人の、競売の場合には特別代理人の選任を申し立てる必要があります。そして、これらは通常は弁護士から選ばれます。その報酬を見込んで地裁が決めた「予納金」を納める必要があることも、相続財産管理人の場合と同様です。

最後に一言

「弁護士とかけて、チリトリと解く。

その心は、ホウキとセットでご活用ください(おそまつ)。」