倒産現場に残された人達(弁護士今井慶貴)

「弁護士今井慶貴のズバッと法談」は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士 今井 慶貴 が2017年4月より月に一度連載しているコラムです。

第3回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、「倒産現場に残された人達」です(エピソードは、私の経験にインスパイアされて創作したフィクションです。念のため。)

 

その1 ある介護施設の倒産

ある介護施設が、入所者がいる状態で倒産してしまいました。直前に依頼を受けたこともあり、Xデー当日の朝に社長と一緒に市役所の担当課に出向いて事情を説明し、入所者の移転先の施設を探す協力を要請しました。

 

その足で会社に出向き、従業員に会社の倒産と解雇と給料遅配のおわび、入所者の移転までの残務整理のお願いです。固い表情。従業員への説明のときの雰囲気には、独特のものがあります。

 

加えて、お金を預かっている弁護士としては、手持ちの預かり資金がわずかな中、残務整理期間中の従業員の給料、入所者の給食代、水道光熱費等をやりくりしないといけません。なにせ生身の人間を預かっているわけですので。

 

職員・市役所・近隣施設の皆さんの多くの協力を得て、なんとか1週間程度で入所者の移転業務を完了したときは、心底ほっとしました。

 

その2 ある建設会社の倒産

ある建設会社の破産管財人をしたときのことです。東日本大震災の復興工事のために、被災地に事務所兼従業員寮を構えていました。Xデー当日の朝、そこに従業員を集めて、申立代理人による説明会が開かれました。資金不足で解雇予告手当の一部しか支払えず、数十名の従業員(ほぼ男性)からは怒気があふれています。

 

裁判所から破産手続開始決定が出されると、財産管理権限は管財人にバトンタッチします。従業員には、賃借物件である寮からすみやかに退去してもらう必要がありますが、給料も未払いであり、すぐに引っ越して出て行くことを求めるのは、無理であると判断しました。

加えて、何人かにはリース物件の重機等の引き揚げといった残務整理に協力してもらう必要があります。管財人の補助者日当や、水道光熱費などは、最優先で支払うものです。

 

数か月後、従業員への国の賃金立替払制度による入金がなされた後に、会社の元幹部の方にも説得をお願いして、従業員全員の退去を完了することができました。皆さん、近隣の会社に移ったり、故郷に帰ったりされたそうです。

 

倒産整理は、債権者や従業員などの関係者対応、売掛金の回収や不動産・在庫等の財産保全など、初動時の業務量と緊張感は大きいです。ただ、なんといっても、倒産とは一種の極限状況であるため、関係者の心情を理解して、協力を得ることが大切です。

 

最後に一言

最後に、本誌の読者に一言。

 

「TSR倒産情報の裏に、人間ドラマあり。」