名古屋自動車学校(再雇用)事件の最高裁判決について

この記事を執筆した弁護士
弁護士 鈴木 孝規

鈴木 孝規
(すずき たかのり)

一新総合法律事務所  弁護士

出身地:静岡県静岡市
出身大学:一橋大学法科大学院既修コース卒業

主な取扱分野は、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収など)。そのほか相続、金銭トラブルなど幅広い分野に対応しています。
企業法務チームに所属し、社会保険労務士向け勉強会では、ハラスメント対応をテーマに講師を務めた実績があります。

定年後再雇用者の基本給、賞与に関して、労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下「労契法」といいます。)違反の有無に関して最高裁の判決が出されました(最高裁令和5年7月20日判例タイムズ1513 号80 頁)。

労契法20 条は、有期契約労働者の労働条件が、期限の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、当該労働条件の相違は、職務の内容(業務の内容や責任の程度)、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない、という規定で、現在は、法改正により、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条に承継されています。

本判決は、有期契約労働者の労働条件を考えるうえで参考になりますので、その概要を説明していきます。

本判決の概要

⑴ 事案の概要

本件は、自動車学校の経営等を目的とするY社を定年退職した後、Y社と有期労働契約を締結していたXらが、Y社正職員(無期契約労働者で、自動車教習所の教習指導員の業務に従事していた者)との間の基本給、賞与等の相違は、労契法20条に違反すると主張して、Y社に対して不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案です。

ア Y社における正職員の待遇等

Y社正職員の賃金(月給制)は、基本給と役付手当等で構成されており、賞与は年2回支給されていました(基本給× 所定の掛け率+10段階の勤務評定分)。

正職員は、役職に就き、昇進することが想定されていました。

管理職以外の正職員のうち所定の資格取得から1年以上勤務した者の基本給は、勤続年数に応じて増加傾向にあり、勤続短期正職員(勤続年数1年以上5年未満)は月額12万円前後、勤続年数30年以上だと月額17万円前後で、勤続短期正職員の賞与の平均額は1回当たり18万円前後でした。

イ Y社における嘱託職員の待遇等

Y社は、嘱託職員(定年退職後に有期労働契約に基づいて勤務する者)の労働条件について、正職員の就業規則等とは別に嘱託規程を設けており、賃金体系は勤務形態によりその都度定める旨や、再雇用後は役職に就かない旨等を定めていました。

また、嘱託職員には、勤務成績等を考慮して「臨時に支払う給与」(以下「嘱託職員一時金」といいます。)を支給することがある旨定めていました。

ウ Xらの待遇等

Xらの待遇は表のとおりでした。

なお、X1は、Y社に対し、自身の嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しを求める書面を送付してY社との間で書面によるやり取りをしたり、自身が所属する労働組合の分会長として、Y社に対し、嘱託職員と正職員との賃金の相違について回答を求める書面を送付したりしていました。

⑵ 原審(控訴審)における判断

原審は、Xらについては、定年退職の前後を通じて、主任の役職を退任したことを除き、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲に相違がなかったにもかかわらず、Xらの基本給及び嘱託職員一時金の額は、定年退職時の基本給及び賞与の額を大きく下回り、年功的性格があることから金額が抑制傾向にある勤続短期正職員の基本給及び賞与の額も下回っているとし、このような帰結は、労使自治が反映された結果でなく、労働者の生活保障の観点からも看過し難いなどとし、基本給は定年時の基本給の額の60%を下回る部分、嘱託職員一時金は定年時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じた金額を下回る部分は、労契法20条にいう不合理と認められる、と判断しました。

⑶ 最高裁の判断

最高裁は、次のように判示して、原審を破棄し、本件を原審に差し戻ししました。

まず、判断枠組みについて、基本給や賞与の相違が労契法20条の不合理と認められるかの判断に当たっては、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべき、としました。

そのうえで、基本給について、原審は、正職員の基本給につき、年功的性格を有するとするにとどまり、他の性質の有無及び内容、支給の目的を検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、性質及び支給の目的を何ら検討していない、としました。

また、労使交渉に関する事情は「その他の事情」に該当するところ、原審は、労使交渉の結果に着目するにとどまり、具体的な経緯を勘案していない、としたうえ、各基本給の性質や支給目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある、としました。

嘱託職員一時金についても同様に、賞与及び嘱託職員一時金の性質やこれらの支給目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある、としました。

本判決を受けて

本判決は、従前の最高裁判例と同様、支給されるものの性質や目的等を踏まえて、不合理と認められるか
判断する、としたものです。

企業において、有期契約労働者と無期契約労働者との賃金などの労働条件に差を設ける場合には、差を設けるものの性質や目的に基づき、なぜ差が設けられたのか、労働者にも説明できるように意識して労働条件を決定することが、事後的なトラブルの対応にもつながると考えられます。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2024年5月5日号(vol.292)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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