契約書チェックのコツ「業務委託契約書」について(弁護士:今井 慶貴)

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

そもそも業務委託契約とは?

業務委託契約は、委託者が一定の業務を受託者に委託する契約であり、事業活動において活用されることが多い、身近な契約です。

意外なことに、民法や商法といった法律では、「業務委託契約」という契約類型はありません。

それでは、契約書で定めのない事項については、どうなるのでしょうか。

結論を言えば、その契約の内容からみて、近い内容の契約類型の規定を全部又は一部適用して解決していくということになります。

そして、業務委託契約は、他人に業務を委託する契約ですので、民法上の「請負契約」や「委任契約」のいずれかにあたることが大半です。

請負契約では、受託者が「仕事の完成」を約束するのに対して、委任契約では、受託者は「業務の遂行」を約束します(なお、「法律行為」を行う場合は「委任」、「事実行為」を行う場合は「準委任」になります)。

請負と委任とでは、①受託者の義務の内容(請負:契約に適合した成果品を納める義務、委任:善管注意義務)、②報酬や業務遂行上の費用(請負:報酬必須、業務遂行費用は受託者負担が原則、委任:報酬は必須ではない、業務遂行費用は委託者負担が原則)、③契約を解除できる場合(請負:仕事の完成前は委託者から契約解除できる、委任:いつでも双方から契約解除できる)などについて違いがあります。

また、契約書に貼付する印紙額も異なってきます。 その意味では、その業務委託契約の性格づけを意識しておくとともに、契約書で予め契約条件をはっきりと決めておくことにより、当事者間における解釈の争いをできるだけ防ぐことが大切となります。

業務委託契約書チェックのポイント

その1.委託業務の特定

委託者が受託者にどのような業務を委託するのかを契約で特定することは、ごく当たり前のことと思われるかもしれませんが、実際に契約書をチェックする業務をしていると、委託業務についての記載が不十分であると感じることが少なくありません。

例えば、成果品の納品を要する場合であれば、いかなる仕様のものを何個とか、業務の遂行を目的とする場合には、どのような業務を月何回などと具体的に決めておかないと、そもそも委託業務が契約どおりに遂行されているかどうかの判断すら困難となってしまいます。

得てして、当事者間で暗黙の前提となっていることが、争いになった場合には「言った言わない」の対象となってしまうものです。

また、契約締結後に委託業務の追加や変更があった場合については、委託内容が不明確となりやすいことから、当初契約と同様、書類や電子データ等の取り交わしを行っておくことが大切です。

その2.委託料・報酬

委託料・報酬についても、いつまでに、いくらを支払うかを明確にしておく必要があります。

これも当たり前なことのように思われますが、事前に金額や算定方法が明確に取り決められないまま委託業務が遂行されることも稀ではありません。

その場合、事後に金額の話をして折り合いがつかないと面倒なことになります。

また、支払時期が明確でないと入金が遅れてしまうことにもなりかねません。

その3.契約の任意解除

前記のとおり、請負と委任とでは契約を任意解除できる要件が異なっていますので、契約書で明確に定めておくことが望ましいです。

また、任意解除した場合の委託料・報酬の取扱いや、違約金・損害賠償の定めをしておくことにより、双方にとっての予測可能性を高めることができます。

その4.再委託の可否・条件

受託者が業務の全部又は一部を第三者に再委託できるかどうかについては、委任の場合はできない、請負の場合はできるというのが原則形ですが、契約書で明確にしておくことが望まれます。

例えば、再委託は原則禁止とし、委託者の事前の書面による承諾がある場合のみ認められる旨を契約書で定めることがよくあります。

おわりに

本稿では、ごく基本的なポイントの解説に絞りました。

業務委託契約はよくある契約ではありますが、その内容はバラエティに富んでいます。

いずれにせよ、契約により実現したい内容を出発点として、契約内容が明確なものとなっているか、内容に則した適切な契約条項となっているかという観点から検討していくことになります。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2022年4月5日号(vol.267)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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