2018.8.21

スーパーボランティアの尾畠さんに称賛の声 ―ボランティアの法的問題について考える-(弁護士:五十嵐亮)

 

山口県で2歳児が行方不明になった件で、スーパーボランティアの尾畠さんの活躍に対する称賛の声が上がっています。

ボランティアは1995年の阪神淡路大震災のときに注目されるようになり、その後の震災や今年の豪雨災害でも多くのボランティアが被災地支援に重要な役割を果たしています。

今回は、ボランティアの法的問題についてみていきたいと思います。

 

 

ボランティアの法的位置づけとは?

「ボランティア」とは、本来的には、「金銭的な対価なく、法的義務付けなく、当人の家庭外の者のために提供される仕事を行う者」などと定義されます。

もっとも、実際には、統一的に定めた法律はなく、ボランティアといっても、実際には様々なケースがあります。

そのような状況の中、厚生労働省は、ボランティアについて、「明確な定義を行うことは難しいが、一般的には『自発的な意志に基づき他人や 社会に貢献する行為』を指してボランティア活動と言われており、活動の性格として、『自主性(主体性)』、 『社会性(連帯性)』、『無償性(無給性)』等があげられる。」との見解を示しています。

そして、現在では、「ボランティア」は、以下のような分類がなされています。

 

①まったくの無償のもの

②実費について支払いがあるもの

③謝礼等低廉の支払があるもの

 

一般に、①の場合は「無償ボランティア」、②及び③の場合は、「有償ボランティア」と呼ばれています。

 

スーパーボランティアとして話題となっている尾畠さんの場合には、お風呂の提供も辞退したという報道もありましたので、「無償ボランティア」といえそうです。

 

以下では、無償ボランティアを前提に話を進めたいと思います。

ボランティア活動中にけがをした場合に補償は受けられるのか?

地震等のがれき除去のボランティアの場合には、現場でけがをする危険もあります。

ボランティアがけがをした場合に備えてボランティア保険に加入していれば、保険金が支払われる場合があります。

 

次に、ボランティア団体に加入してボランティア活動をしていた場合には、ボランティア団体や団体の現場のリーダー等に安全配慮義務違反が認められれば、治療費等について損害賠償請求できることがあります。

ボランティア団体に加入しておらず、ボランティア保険にも加入していないような場合には補償を受けることは難しいといえるでしょう。

ボランティアが他人にけがを負わせてしまったら損害賠償責任を負うのか?

ボランティア活動中に自分の不注意で他人にけがを負わせた場合には、民法709条の不法行為として損害賠償請求されることがあります。

裁判例にも、社会福祉協議会のボランティアセンターに登録して派遣されたボランティアが左半身麻痺により歩行が不自由な者の歩行介助のボランティアをしていたところ、目を離していた際に転倒し骨折したという事案について争われたものがあります。

 

この事案で、裁判所は、ボランティアの賠償責任について、以下のような判断をしました。

 

・ボランティアとしてであれ、障害者の歩行介助を引き受けた以上、介護を行うに当たっては、善良な管理者としての注意義務を尽くさなければならない

・素人であるボランティアに対して医療専門家のような介護を期待することはできず、歩行介護を行うボランティアには、障害者の身を案ずる身内の人間が行う程度の誠実さをもって通常人であれば尽くすべき注意義務が要求される

・ボランティアが無償の奉仕活動であるからといって、その故直ちに責任が軽減されることはない

 

すなわち、ボランティアであっても、通常人であれば尽くすべき注意義務に反したと認められるような不注意があった場合には、損害賠償責任を負うということです。

ボランティアに関する法律問題は曖昧なまま-「もしも」のための対策を

以上のように、ボランティアを行う際には、自分がけがをしたり、または他人にけがを負わせたりして損害賠償の法的問題が生じるリスクがあります。

ボランティアは、前述のとおり、「無償性」、「自主性」という性格を有する社会奉仕活動として位置づけられるものであるため、契約を前提とする法律である民法や労働基準法等によって全てをカバーすることは難しい面があります。

 

ボランティア活動をする場合には、初心者の方はボランティア団体に登録したり、ボランティア保険に加入するなどの対策をとることが重要です。