問題社員・モンスター社員を辞めさせる方法は?対処法と解雇の法的リスクについて

会社経営において、多くあげられる労務問題のひとつが、俗にいう問題社員、モンスター社員への対応です。

しかし問題行動があるからといって、従業員を辞めさせることは簡単ではなく、不当解雇だと判断されてしまうリスクもあるため、多くの企業が頭を悩ます問題となっています。


このコラムでは、問題社員、モンスター社員への適切な対応方法や、問題社員を辞めさせる場合の進め方、解雇する場合の法的リスクについて解説します。

1.問題社員・モンスター社員とは?

職場の労務問題において、問題社員やモンスター社員という言葉をよく耳にするようになっています。

「モンスター社員」とは、社内の規則に違反する、業務命令に従わない、上司・同僚に対して攻撃的な態度や、誹謗中傷を繰り返したりするなど、職場環境において悪影響を及ぼす従業員のことを指して使用されます。


一方で「問題社員」とは、仕事における本人の能力不足や、協調性の欠如、遅刻や無断欠勤を繰り返す、ハラスメント行為、社内不倫や犯罪行為など私生活における問題行動など、さまざまな問題を抱える従業員に対して広い意味で使用されています。

問題社員(モンスター社員)の特徴

問題社員(モンスター社員)の特徴として、以下のようなものが挙げられます。

・業務命令に従わない
・上司や同僚に対し攻撃的な態度や暴言、誹謗中傷を繰り返す
・協調性がなく、自己中心的な発言をする
・悪質なハラスメント(セクハラ・パワハラ)行為を行う
・遅刻、無断欠勤を繰り返す
・仕事を怠ける、さぼる
・社内不倫、刑事事件を起こすなど私生活での問題行為


明確な定義があるわけではありませんが、明らかに常識を逸脱した言動で周囲の人間を振り回し、また、権利ばかりを主張するような、会社側にとって対応の難しい社員です。


近年は、あらゆる情報を誰でも簡単に手に入れられるようになったため、労働者側が労働法に詳しくなってきています。

手に入れた情報から、自分に都合の良い部分だけを振りかざし、問題行動をどんどんエスカレートさせ、モンスター社員化していくケースが増えているようです。

2.問題社員を会社が放置することのリスク

問題のある社員に対し、企業側が何の対応もせずに放置すれば、社内秩序は乱れ、ほかの従業員のモチベーションにも悪影響を及ぼしてしまいます。

職場環境のモチベーション低下

問題社員がいる職場環境では、周囲の人間が問題社員のミスや遅刻・欠勤をフォローすることが常態化し、業務負担が増えていきます。

そういった状況が続くことで、真面目に業務に取り組むことを馬鹿らしく感じてしまい、徐々に仕事に対する士気や生産性が低下します。

優秀な人材の離職

問題社員の対応に追われ、本来の業務にあたることができずに残業が増えたり、問題社員を注意したことで、注意された部下から敵意を向けられ、いわゆる「逆パワハラ」を受けたりするケースがあります。

問題社員によるハラスメントが原因で、優秀な人材が退職してしまう事態が発生してしまいます。


また、直接被害を受けていなくても、問題社員に対して何の対応もしない会社への不満が募り、離職者が出る場合もあるでしょう。

企業イメージの低下

問題社員の態度・行動によって、取引先との間にトラブルが発生したり、社内での指導に対し「それはパワハラではないか?」と主張され訴訟を起こされたりすれば、企業イメージの低下につながります。

社内の顧客情報を持ち出したりするなどの情報漏洩が発生すれば、企業責任が問われる事態となるでしょう。

以上のように、問題社員・モンスター社員の存在は、職場環境や企業の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

問題社員が残り、優秀な人材が流出していくことは、企業経営にとって大きな痛手となりますので、早期に適切な対策を講じるとこが重要です。

3.問題社員への対応策

問題社員のトラブルには様々なケースがありますが、順を追って適切に対応していくことが肝心です。

最終的に問題社員(モンスター社員)を解雇したいと考えた場合にも、段階的な対応をとる必要があると、過去の裁判例からもいえるでしょう。

適切な注意と指導を行い、問題行動の証拠を残しておく

問題行動があったときに、放置せず直ちに指導することがとても重要になります。

「急に辞められたら困る」「注意すると面倒なことになる」などの理由で、問題行動を見逃したり、上司の対応がその都度異なってしまったりすると、いざ問題行動について指導を行ったときに、一貫性のなさから相手も納得しづらくなります。


指導をするときは、感情的にならず、何が問題だったのか、今後はどのように改善すればよいのかなど、問題点について具体的な指摘と改善策を伝えましょう。

感情的になって、余計な嫌味を言ってしまうと、かえって相手の反発を買い、また、後になってパワハラなどと訴えられる可能性もあります。


ここで大切なのは、問題となった行動の発生した日時や内容、メールなどの証拠と、その際に行った指導内容をきちんと書面やデータに残しておくことです。

問題行動を口頭で指導するだけでは、後々「そんな問題行動はしていない」「上司から注意は受けていない」という反論をされる可能性がありますので、必ず記録に残しておくようにしましょう。

始末書・誓約書を書かせる

口頭での指導で改善しない場合には、始末書の提出や、誓約書を書かせることも有効です。

問題社員自身が自分の行動について整理することで、客観的に物事を振り返り、態度を改めるかもしれません。

また、文書に残しておくことで、指導したことが記録に残り、また問題行動があった場合に対処しやすくなります。

必要に応じて、定期的な面談を行うのも有効でしょう。

異動・配置転換を行う

能力に問題のある場合には、本人の適性に合った業務に配置転換させることで問題が解決する場合があります。

また、上司の業務命令に従わなかったり、特定の同僚に対し攻撃的な態度とったりするような、人間関係に問題がある社員の場合には、しっかりと指導できる部署に異動させることで、態度が改善される可能性があります。


ただし、問題社員を退職に追い込むことを目的とした異動や転勤命令はしてはいけません。

後になって裁判になった際に、業務上必要のない不当な目的による異動命令と判断された場合には、異動命令の無効や、損害賠償を命じられることもありますので注意が必要です。

懲戒処分を検討する

問題行動に対して、繰り返し指導や面談を行っても改善が見られない場合には、懲戒処分の検討をします。

懲戒処分とは、従業員の企業秩序や職務規律に対する違反行為を受けて会社が実施する制裁罰のことです。

懲戒処分の内容は、会社ごとに異なりますが、一般的なものは、①戒告・譴責(けんせき)・訓告、②減給、③出勤停止、④降格、⑤諭旨解雇、⑥懲戒解雇が挙げられます。


口頭での注意で改善が見られない場合には、減給など段階的な対応を行いましょう。

懲戒処分を行うことで、本人に対しより強い警告を与えることができますし、周囲の従業員に対しても、会社が問題行動に対してしっかりと対応する姿勢を示すことができます。

4.問題社員・モンスター社員を辞めさせることはできるか?

問題社員(モンスター社員)に適切な対応・指導を行っても、まったく問題行動が改善されることがなく、態度を改めない場合には、会社を辞めさせることはできるのでしょうか。

まずは退職勧奨から

問題社員に会社を辞めてもらいたいと考えたときは、すぐに解雇をするのではなく、「退職勧奨」から行った方がよいケースが多いでしょう。

退職勧奨とは、会社側から従業員に対して自発的な退職を促す行為であり、従業員との合意による雇用契約終了を目指すことを言います。


退職勧奨は、それ自体は適法ですが、執拗な退職勧奨や、退職強要ととられかねない行為があった場合は違法行為となり、裁判になった場合に、会社側が慰謝料を命じられることも少なくありません。


退職勧奨を行う場合には、従業員への説明方法や、退職した場合の条件(退職金の増額や、一定期間分の給与保障など)について、弁護士などに相談した上で、企業側が予めしっかりと決めておくことが重要です。

関連コラム▶退職勧奨の実施方法と注意点

解雇を検討する場合の注意点

退職勧奨でも合意に至らなかった場合に、解雇することはできるでしょうか。

解雇とは、従業員の同意なく、会社側(使用者)が一方的に雇用契約を終了させる行為です。

使用者による一方的な意思表示によってなされる点で、合意退職とは異なります。


解雇には、大きく分けて「普通解雇」、「懲戒解雇」の2種類があります。


①普通解雇
・従業員の能力不足や会社の経営難などを解雇理由として行われる解雇。制裁としての性格を持たない。
・病気やけがによる就業不能、能力不足、成績不振、協調性の欠如など
普通解雇の一種で、会社の経営不振などにより人員削減を目的として行われる「整理解雇」があります。俗にいうリストラがこれにあたります。

②懲戒解雇
・従業員の「規律違反」を事由として、就業規則に基づく懲戒処分として行う解雇。制裁としての性格を持つ。
・業務上横領、配転命令などに対する業務命令拒否、無断欠勤、ハラスメント行為、経歴詐称


民法上では、雇用期間の定めがない場合は「いつでも」雇用契約の解約申し入れが可能とされており、申し入れの日から2週間経過により雇用契約は終了します(民法627条1項)

ただし、民法上の規定をそのまま適用すると労働者側に大きな不利益があることから、労働法により解雇を制限する形、いわゆる「解雇権濫用法理」が整備されています。


また、この法理を具体化した労働契約法第16条では、簡単に解雇を認めておらず、解雇するためには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たす必要があるとされています。

「客観的に合理的な理由」
①労働者の労働能力の欠如、②労働者の法律違反行為、③経営上の必要性の3つに大別

「社会通念上の相当性」
総合的にみて、雇用喪失という不利益に相応する事情があるか


この2つの要件を満たしていないと判断された場合には、解雇は無効となります。

どのような場合に違法解雇となるのかは、個々の事情や証拠によって判断が異なります。

また、法律が定める解雇禁止の場合に該当しないことや、適正な手続でなされることも必要です。

解雇における要件を満たし、適切な手続きで解雇が行われた場合でも、従業員が納得せずに裁判に発展することも少なくありません。

5.不当解雇とされるリスクに注意

安易に解雇をしてしまい、不当解雇と判断された場合には多くのリスクが発生します。

労働紛争に発展してしまうリスク

解雇事由に納得してもらえなかった場合には、解雇した従業員から、不当解雇として裁判を起こされる可能性があります。

裁判を起こされれば、裁判に対応する時間や労力、弁護士費用、企業イメージの低下などのリスクが発生し、また、裁判に負けた場合には当該従業員を復職させなければなりません。

解雇期間の給与を支払わなければならない可能性

裁判により、労働契約法上に定められている、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の2つの要件を満たしていないと判断された場合には、解雇は無効となります。

いわゆる不当解雇と呼ばれるもので、その場合、会社は当該社員が働いていなくとも、解雇期間中に当該社員に本来支払うべきであった給与を支払う義務を負います(民法第536条第2項)。

この場合に支払われる賃金は「バックペイ(未払賃金)」と呼ばれます。


バックペイは、会社が従業員を解雇してから、解雇無効の判決が出て従業員を復職させるまでの期間について支払う必要があることが原則です。

そのため、裁判が長引けば長引くほど、不当解雇と判断された場合のバックペイの支払額が高額になります。

6.モンスター社員を生み出さないための対策を

問題社員を放置しない職場づくり

問題社員をモンスター社員にしてしまう原因は、本人の資質だけではなく、それを放置してしまう職場環境にもあります。

企業経営者や管理職が明確なルールを定め、従業員の業務の適性を見極め、問題行動があった場合にはすぐに明確な指示、指導を行うことで、問題が大きくなるのを未然に防ぐことができます。


採用時に、問題社員に成りうるかどうかを見極めるのは困難ですが、転職者の場合には、過去の職務経歴(在職期間や、離職理由等)をしっかりと確認し、問題のありそうな場合には採用について慎重になることが必要です。


また、モンスター社員のように明らかに迷惑行為をする社員が問題となる一方で、一見問題行動がないように思える社員の中にも、業務の生産性が低く、ただ勤務時間をやり過ごしているようなタイプの問題社員がいます。

近年、在宅勤務の増加とともに、このようなタイプの社員の問題が表面化してきました。

生産性の低い社員を増やさないためにも、毎日の業務報告、成果の管理を徹底することが必要です。

問題社員の解雇について弁護士に相談するメリット

社内での対応が難しい問題社員、モンスター社員に対して、退職勧奨、解雇を検討する場合には、事前に弁護士に相談することをおすすめします。

問題社員に対する指導方法を誤ればハラスメントなどを訴えられ、安易に解雇をしてしまうと、不当解雇と判断され裁判になるリスクがあります。


弁護士に依頼することで、初期対応の段階から、確実な証拠の収集と、適切な指導を行うことができます。

また、退職勧奨や解雇の必要がある場合には、双方の意見を調整し、納得を得られるように話し合いを進め、解雇事由の正当性について法的側面から判断し、対応を検討していきます。


問題社員でお困りの場合には、早い段階で、まずは労働問題に精通した一新総合法律事務所の企業法務チーム弁護士にご相談ください。

この記事を監修した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

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