障害者雇用の労働者に対する解雇が違法とされた事例~大阪地裁令和4年4月12日判決(労働判例1278号31頁)~弁護士:五十嵐亮

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

事案の概要

当事者

被告(Y社)は、鉄道車両及び船舶の製造等を目的とする株式会社である。

原告(X)は、平成30年11月よりY社と雇用契約を締結し、断熱材の貼付作業等に従事していた者である。

Xは、持病のてんかんにより障害等級1級の認定を受けた。

また、右の骨盤に8本のボルトが入っており、足を思うように動かしにくい状態であった。

Xは障害者として採用されており、合理的配慮が必要な労働者であった。

Y社が主張する解雇理由

Y社は、Xに対し、令和元年6月20日、以下の①及び②の事情により、Y社就業規則第66条4号(勤務意欲が低く、これに伴い、勤務成績、勤務態度その他業務能率全般が不良で業務に適さないと認められるとき)に該当するとして、解雇するとの通知書を交付した(本件解雇)。

なお、本件において問題となった事情は、多岐にわたるが、紙幅の関係上事情を絞って紹介するものである。

事情①(作業が遅いこと)

Y社は、Xに対し、断熱材の貼付作業を午後2時までに終えるという目標を定めた(他の従業員よりも1時間35分長い時間であった)が、Xが作業を終えることができたのは、平均して午後4時頃であった。

事情②(スプレーガンの使用技術が不足していること)

断熱材を貼り付けるボンドを吹き付けるために、スプレーガンを使用していた。

Xは、スプレーガンの圧力が強い状態でボンドを吹き付けることがあったため、車両の外板にボンドを付着させたり、床敷物にこぼしたりすることがあった。

特に、車両の外板は汚してはならず、ボンドが付着した場合には技術がある者がふき取る必要がある。

Xの請求内容

Xは、Y社に対し、本件解雇は解雇権濫用に当たり違法・無効であるとして、雇用契約上の地位にあることの確認等を求める訴訟を提起した。

本件の争点

本件の主な争点は、本件解雇が解雇権濫用に当たるかという点である。

裁判所の判断

事情①について

裁判所は、以下の理由により、事情①は解雇理由とは認められないと判断した。

・Xは、主治医より、てんかんの症状のため、手が遅く、急かされると焦ってしまい不眠となり夜間睡眠中の発作が激増するため、急かさないように配慮する必要があると診断されていた

・Xは、骨盤にボルトが入っているため足場への上り下りや足場上での踏ん張り、足場の移動の際に相応の負担がかかる

・本件作業方法の通りに作業をしたところ、足場の端に立つと足場が沈み骨盤に負担がかかっていたことから、Xは自らの身体の状態に合った作業方法を試行錯誤しながら模索しているところであった

・午後3時頃に作業を終えられる日もあり、作業速度が向上しつつあった

・作業速度について「一歩一歩仕事を覚えてくれたらいい」「毎日コツコツやっていれば、1年、2年、3年経った時に先輩と同じ程度に貼ることができるようになる」と証言し、作業速度を問題視していない旨証言する先輩従業員がいた

事情②について

裁判所は、以下の理由により、事情②は解雇理由とは認められないと判断した。

・「ボンドが飛び散ったことによりふき取りに要する時間は1回あたり20分から30分であり、そのことによって残業になったことはなかった」と証言する先輩従業員がおり、ボンドのふき取りにより大きな業務上の支障はなかった

・「経験豊富な他の作業員でも圧力の調整を誤ってボンドを拡散させることが少なくともたまには生じる」と証言した先輩従業員もいた

結論

裁判所は、結論として、Y社就業規則第66条4号(勤務意欲が低く、これに伴い、勤務成績、勤務態度その他業務能率全般が不良で業務に適さないと認められるとき)には該当しないとして、本件解雇は違法・無効と判断した。

本件のポイント

能力不足等を理由に解雇する場合には、使用者側において解雇理由を立証する必要があります。

解雇の裁判例では、能力不足について、「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」と判断するものもあり、解雇が適法となるためのハードルは高いといえます。

また、本件では、Xがてんかんの持病を持つ障害者であったことも考慮すれば、必要且つ合理的な配慮を踏まえて、適切な業務水準を設定する必要があったといえるでしょう。


初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年7月5日号(vol.282)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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