2023.7.12

譴責処分を理由とした再雇用拒否が無効とされた事例~富山地裁令和4年7月20日決定(労働判例1273号5頁)~弁護士:五十嵐亮

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

事案の概要

当事者

被告(Y社)は、各種山菜の缶詰製造、水煮加工等を業とする株式会社である。

原告(X)は、平成24年3月より、Y社に勤務し、令和2年3月より、係長として勤務していた者である。

定年後再雇用契約の内容

Y社の就業規則によれば、Xは、令和2年7月20日(60歳に達した日の属する月の賃金締切日)に定年となることになっていた。

そのため、令和2年2月20日、X及びY社は、定年後の再雇用について、以下のような内容の合意を締結した(本件合意)。

本件合意には、以下の事由に該当する場合には本件合意を破棄する旨の条項が含まれていた(本件条項)。

①就業規則の定めに抵触した場合
②原告の健康上の問題により本件合意の内容では就業が困難であると認められる場合
③その他本件合意を見直すべき特段の事情が生じた場合

Xのけん責処分と本件合意の解除

Y社は、令和2年4月7日、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発出されたことに伴い、出社人数を抑制するため、Xら従業員に対し、自宅待機(自宅待機中も通常の賃金を支払う)を命じた。

しかしながら、Xは、4月14日及び4月16日に通常の勤務時間中に私用外出をした。

令和2年4月27日、Y社は、自宅待機中の私用外出があり業務命令違反があったとしてXを譴責の懲戒処分とし、始末書の提出を命じた。

令和2年7月8日、Y社は、原告に対し、譴責の懲戒処分を受けたとして、本件条項①(「就業規則の定めに抵触した場合」)に該当するとして、本件合意を解除し、定年後の再雇用契約を締結しない旨通知した(本件解除)。

Xの請求内容

Xは、Y社に対し、本件解除は、65歳までの雇用確保措置をとること等を定めた高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に違反し、無効であると主張し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び嘱託雇用契約に基づく賃金支払いを求めて訴訟を提起した。

本件の争点

本件の主な争点は、本件解除(再雇用拒否)は有効かという点である。

裁判所の判断

裁判所は、本件解除は無効であるとして、令和6年7月分までの基本給を支払うことを命じたものである。

裁判所が示した理由は、以下のとおりである。

・「就業規則の定めに抵触した場合」に再雇用を拒否することができる旨を定めた本件条項は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の趣旨に反する

・高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の趣旨からすれば、解雇事由又は退職事由に該当する事由がない限り、再雇用すべきと解するべきである

・Xは譴責処分を受けているが、事実を認め反省の弁を述べ、その後同様の行為に及んだことはなく、譴責を越えて解雇にするほどの事情はない

本件のポイント

「高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針」によれば、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合には、継続雇用しないことができるとされていますが、これと異なる運用基準を設けることは、法令の趣旨に反するおそれがあることとされています。

Y社は、この運用指針に定める事由のほかに、本件条項(「就業規則の定めに抵触した場合」)を定め、Xが譴責処分とされたことにより、再雇用の合意を解除し、再雇用を拒否したものです。

裁判所は、本件条項を無効と判断した上で、解雇にするほどの事情がないことを理由に本件解除は無効であると判断していることから、65歳未満の再雇用を拒否することについては、解雇に準じて厳格な判断をしていると考えられる
ため、注意が必要です。

また、再雇用拒否が違法と判断された場合には、再雇用拒否がなければ65歳まで雇用継続されたはずであるとして、未払い賃金の額が高額になる傾向があるためこの点についても注意が必要です。


初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年5月5日号(vol.280)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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