2022.2.17

肩に触れる行為と映画に誘う行為はセクハラに当たるのか?~東京地裁令和2年3月3日判決(労働判例1242号72頁)~弁護士:五十嵐 亮

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

事案の概要

当事者

Xは、労働者派遣契約に基づきY社に派遣され、Y社の総務部にて就労していたものである。

Y社は、対象事業活動に対し、資金供給その他の支援等を行うことを目的とした株式会社である。

問題となったセクハラ行為の内容問題となった行為は、次の2つの行為である。

①業務上の歓送迎会の二次会に参加した帰りに、駅のホームで、専務AがXの肩に5回程度手を回し、その都度Xが専務Aの手を払って拒否した(行為①) ②Y社の監査役秘書が主催した業務外の懇親会において、専務Bが、Xに対し、「当たり!!ワインディナーwith監査役(交換不可)」などと記載されたくじを引かせた(行為②)

Y社の対応

Xは、後日、Y社の社外ホットライン窓口へ相談(Z弁護士)した。

それを受けて、Y社は関係者に事情聴取等を行い、聴取結果をもとにZ弁護士に法的助言を依頼した。

Z弁護士からは、行為①については、目撃証言等の証拠がないため行為①の存在を認定することはできない、行為②については、セクハラには該当しないが、女性従業員らに対する配慮に欠け、不適切であったとの助言があった。

Y社は、Z弁護士の助言を参考に、行為①について専務Aに対して不処分、行為②について専務Bに対して口頭での厳重注意とした。

訴訟の内容

Xは、専務A及び専務Bの行為が、セクハラ行為であり、Xの人格権を侵害するものであって、違法であると主張し、不法行為に基づき、400万円の損害賠償を請求した。

また、Xは、Y社に対し、就業環境配慮・整備義務を怠ったとして慰謝料200万円を請求した。

本件の争点

本件の争点は、行為①及び行為②がセクハラ行為として違法となるかという点、Y社に職場環境配慮・整備義務の違反があったかどうかという点及び違法とされた場合、慰謝料額はいくらとなるかという点である。

裁判所の判断

行為①について

専務Aは、行為①を否認したが、裁判所は、Xが専務Aと駅で別れた直後にされた同僚とのLINEメッセージの記録を証拠として、行為①があったことを認定した。

LINEメッセージのやりとりは概ね次の通りである。

  • X :「いま別れました!!!」
  • 同僚:「大丈夫?まじ、ありえない」
  • X :「もー、次の会の時は先に帰ります」
  • 同僚:「Oさん、心配して偵察行ってたよ」
  •    「反対ホームから丸見え」
  • X :「わたしは大丈夫です。肩触られたくらいです」
  • 同僚:「肩も問題!」
  • X :「肩なんで又に比べたらどってことないですよ!!!」

その上で、裁判所は、行為①について、「Xが専務Aの手を払って拒否しているにもかかわらず、故意に複数回Xの肩に手を回そうとして、現に肩に触れたものであるところ、男性である専務Aが女性であるXの意思に反して複数回その身体に接触した行為は、Xの人格権を侵害する行為であるというべきであって不法行為に当たる」と判断した。

行為②について

裁判所は、「くじ引きをさせた行為は、客観的にみれば、くじ引きという形式をとることにより、単に映画等に誘うなどするのとは異なり、女性従業員において、その諾否について意思を示す機会がないままに本件くじ引きに記載された内容の実現を強いられると感じてしかるべきである。

しかも、本件くじ引きを企画した専務Bは、Y社の専務取締役であるから、派遣労働者であるXが本件くじ引き自体を拒否することは困難と感じたことは容易に推認される」としたうえで、行為②は「Xの意思にかかわらず業務と無関係の行事に監査役や専務Bと同行することなどを実質的に強制するものであり、Xの人格権を侵害する不法行為というべきである」と判断した。

Y社の職場環境配慮・整備義務違反の有無について

裁判所は、Y社は、「Xが社外ホットラインに通報した後、速やかに関係者に対する事実関係の調査を実施し、弁護士の助言に基づいて専務Aの行為を不適切と判断して厳重注意をしたのであって、その調査や判断の過程に不適切な点があったとの事実を認めるに足りる証拠はない」などの理由により、Y社に職場環境配慮・整備義務違反があったとは認められないと判断した。

損害賠償の額について

裁判所は、行為①及び行為②について、慰謝料の額としてそれぞれ5万円が相当と判断し、専務Aと専務Bに対して、それぞれXに5万円ずつ支払うよう命じた。

本件のポイント

本件では、肩に触れるという身体接触行為と間接的に映画に誘うという行為が違法と判断されました。

身体接触は原則としてセクハラに該当すると考えられるため慎むべきでしょう。

映画に誘う行為は、グレーではありますが、上司が部下を誘う場合は、セクハラに発展しやすいシチュエーションなので避けるべきでしょう。


<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年12月5日号(vol.263)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

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