委託契約の契約ライダーが 「労働者」に該当すると判断した事例~大阪地裁令和 2 年 5月 29日判決~(弁護士:五十嵐 亮)

 

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

事案の概要

当事者

被告であるY社は、タイヤの製造販売を営む株式会社である。

 

原告であるXは、Y社において業務委託契約によるテストライダー(契約ライダー)としてバイクを運転してサーキットコースを周回走行する業務に従事していた者である。

 

契約ライダー契約内容

XとY社は、平成19年以降、1年ごとに以下のような内容を定めた「タイヤ開発テスト委託契約書」を作成していた。

 

対     価 1日5万0116円(サーキットの場合)
宿 泊 費 実費精算(但し、上限8000円)
交 通 費 実費精算
車両関係費 実費精算
食 事 代 1日2000円

 

テストライダーの業務内容

Y社におけるテストライダーは、市販タイヤの摩耗テストを行うものであり、テストセンターのサーキットコース等において一定時間走行し、Y社が必要なデータ収集していたものである。

Y社におけるテストライダーには、Xのような契約ライダーの他に社員ライダーがおり、社員ライダーが不足する場合にY社の要請によりテストライダーが参加していた。

開発テストは、年に少なくとも5、6回は実施されていた。

 

 

テスト中の事故

平成29年5月20日、Xがテスト走行をしていたところ、道路左側の縁石への接触により転倒する事故が発生し(本件事故)、これにより胸髄損傷などの傷害を負い、その後リハビリ等の治療を受けたものの後遺障害が残存した。

Xは、本件事故について、労働基準監督署に対し、労災申請(療養補償給付、傷害補償給付及び介護保障給付)を行ったが、労働基準法9条の「労働者」に該当しないことを理由に不支給処分とされた(本件処分)。

 

Xの請求内容

Xは、国に対し、本件処分の取消しを求めて提訴した。

 

本件の争点

本件の争点は、Xが労働基準法9条の「労働者」に該当するか否か(労働者性)である。

 

裁判所の判断

労働者性の判断基準

まず、裁判所は、労働者性の判断について、

 

①労働が使用者の指揮監督下において行われているか否か
②報酬が提供された労務に対するものであるか否か

 

という点を考慮して判断するとした。

 

その際の具体的な考慮要素として、具体的仕事の依頼方法、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無、労務提供の代替性の有無等をあげている。

そして、①及び②の点のみでは判断できない場合には、③その他の要素、具体的には、事業者性の程度(機械・器具の負担関係、報酬の額、損害に対する責任、商号使用の有無等)、専属性の程度、その他の事情(報酬について給与所得として源泉徴収を行っていること、労働保険の適用対象としていること、服務規律を適用していることなど)を勘案して判断するとした。

 

本件における事実関係

①の要素について

・業務遂行についてXの裁量にゆだねられていた事項はほぼ皆無
・集合時間や走行する時間についてはY社から指定されており、時間的・場所的な拘束下にあった
・Xが自らの判断で補助者を使うことは会社から認められていなかった

 

  • ②の要素について

・1日の業務従事時間が予定より短くなった場合であっても報酬の増減はなく、労務対償性を欠くとはいえない

 

③の要素について

・使用するバイクはY社が準備していた

・防具類はXが準備していたが、防具類の配送費用はY社が負担していた
・Xは左官業を営んでいたが、テストライダーの業務を行うときは、一定期間拘束されることから、左官業務を行うことは困難であり、Y社への専属性が認められる

 

結論

裁判所は、以上の事実関係を考慮した上で、Xは「労働者」に該当すると判断した。

 

本件のポイント

「労働者」に該当すると、労働基準法や労災保険法等の適用を受けるため、残業代の支払いや労災給付の問題が生じます。

労働基準法上の「労働者」に該当するか否かは、契約の名称ではなく、実態によって判断されます。

 

本件では、契約上は「委託」とされていましたが、契約ライダーに対する時間的・場所的拘束性が高いことから、実質的には労働者であると判断されました。

 

形式的には「委託」や「請負」と取り扱っているが、実際には労働者かどうか曖昧な方は、色々な業種において存在しているものです。

 

よく問題となるケースとしては、従業員兼取締役、裁量性の高い職種や特殊な職種、零細下請業者などがありますが、最近は雇用形態の多様化により判断が難しいケースが増えていますので、判断に悩むケースがありましたらご相談ください。

 

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2021年5月5日号(vol.256)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

 

 

 

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