2020.11.12

内部通報後の社内調査で留意すべきこと ~不正行為を中心に~(弁護士:佐藤明)

 

内部通報(窓口)

内部通報については、公益通報に該当する法令違反行為等やセクハラ・パワハラのハラスメントなど様々な問題が、従業員からどのように会社に通報されるかが重要です。
通報のために窓口を社内に設けるかあるいは外部に窓口を設けるかで違いがあると思いますが、窓口を設けることで中立的に通報者の保護を図ることが期待されます。

 

社内調査

通報内容が、社内での業務上横領等犯罪行為など法令違反行為等(不正行為)の場合には、それが事実・真実であれば対象者に対する懲戒処分、民事責任の追及、刑事事件の追及(告訴、告発)が検討される ことになります。

また、セクハラやパワハラなどハラスメントでは、対象者の懲戒処分が特に問題となり、さらに態様が悪質であれば被害者による民事、刑事の責任追及もありえます。

いずれも通報者・被害者の主観を重視すべきものですが、パワハラの場合には職務上の指示等との区別が難しい面もあります。

どのように対処するかの前提として、通報された事実が本当かどうか、そのことを裏付ける証拠の収集、その証拠を元にどのように判断するかを意識して検討する必要があります。

以下では、今回は法令違反行為等(不正行為)に限定して説明します。

 

⑵ 調査体制

通報対象者に法令違反行為があるかどうか、通報のみからその不正が直ちに確認できることは難しいものの、調査が十分でないと対象者に知られて証拠を隠滅されたり、会社被害が拡大するおそれもあります。

そのため、出来る限り、調査担当者は限られた人で構成し、当該情報を社内でも漏れないようにすること、迅速に対応していくことが必要となります。

たとえば社内で内部監査のような体制を整えていればその担当者により、体制がなければ不正の内容により経理担当などで構成することが考えられます。

 

⑶ 客観的証拠の収集

通報者からの通報自体が調査の端緒となりますが、それが事実と判断できるかは、関係書類などの資料、客観的な裏付け・証拠が重要なものとなります。

さらには、それらの証拠は、前述のように証拠隠滅のおそれもあるので、早めに保全すべきです。
会社所有の業務使用の PCであっても、就業規則で禁止していれば別として社員には私用メールがある程度許されていると思われますから、そのメールを調査検討することは、プライバシー保護との関係で注意が必要です。

実務的には、社会通念上必要で相当な手段であれば開示をもとめることは可能と考えられています。

PC 内のファイル等データについても、同様の配慮のもとで調査すべきです。

 

 

⑷ 関係者からのヒアリング

ア 通報者

通報者から、通報内容をヒアリングすることは、情報収集としても重要ですので、匿名希望であっても、出来る限り協力をしてもらうように働きかける必要があり
ます。

ただ、そのために通報対象者に誰から通報があったか特定される可能性があり、匿名性を確保しておくように検討しておく必要があります。

 

イ 対象者

対象者からのヒアリングでは、一方的に不正を決めつけるような、誘導するようなヒアリングはそれ自体が自認を強要しているものとの反論をされることもあり、
供述の信用性が損なわれる恐れがあるので気を付けるべきです。

通報内容が客観的な証拠等で裏付けられているような場合には、対象者からのヒアリングでその証拠との整合性をチェックするような形で慎重に進めるべきです。

なおこの場合に、ヒアリングを録音すべきか問題となるところですが、双方が了解のうえで、どのようなやり取りをしたかを証拠として残すことには意義があります。

録音でなければ、ヒアリングを筆記する担当者を決めて対応すべきです。

なお、秘密で録音することは、裁判上証拠としての価値が問題とされる場合もあるのでさらに注意が必要です。

 

ウ 他の関係者

通報者からの通報内容から客観的な証拠だけでなく、対象者の不正を見聞きしている関係者からもヒアリングすることが重要であることも考えられます。

ただ、関係者がいわゆる共犯関係にあるか、不正に関わりがないかなどを見極めつつ、不正に関わっていないようであれば協力が得られるような環境を作るべきことは、通報者の場合と同様です。

 

最後に

以上のように、通報者や対象者からのヒアリングでの留意点を簡単ですが説明しました。
ただ、そのような問題が生じることが実際に頻繁に起きることはなく、問題が起きてから対応に困ることも考えられます。

そのような場合に、その調査に直接関与することも含め、調査の進め方について弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年9月5日号(vol.248)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 佐藤 明

佐藤 明
(さとう あきら)

一新総合法律事務所
副理事長/長岡事務所長/弁護士

出身地:新潟県長岡市
出身大学:新潟大学法学部(民法専攻)
新潟県弁護士会副会長(平成25年度)などを務める。
取扱い分野は、団体では企業法務、自治体法務、学校法務など。個人では相続や離婚などの家事事件、金銭問題など幅広い分野に対応しています。
社内研修向けにハラスメントセミナーや、相続・遺言、成年後見制度をテーマとしたセミナーで講師を務めた実績があります。

 

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