契約社員にのみ退職金制度がないことが 違法と判断された事案~東京高裁 平成31 年2 月20 日判決~

事案の概要

会社の概要

被告となったY社は、地下鉄を運行する会社の100%子会社であり、地下鉄駅構内の新聞・飲食料品等の物品販売等の事業を行う株式会社であり、平成25年7月1日現在の従業員数は約850名である。

 

Y社は、本社に経営管理部、総務部、リテール事業本部、ステーション事業本部を置き、リテール事業本部が駅構内の各売店を管轄しており、売店数は、110店舗であった。

 

原告の請求内容

原告(3名)は、Y社においては、正社員と同一の責任の下で同一業務を行い、同じ勤続年数の契約社員に退職金を支給しないのは労働契約における期間の定めの有無という違いのみを理由とする相違であり、労働契約法20条に違反する不合理な格差であるとして、退職金について、一人当たり約145万円から約246万円の請求を行った。

 

第二十条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

正社員と契約社員の業務内容との相違

Y社においては、正社員と期間の定めのある契約社員がいたが、双方の業務内容等の違いは下上の表のとおり。

 

 

正社員と契約社員の退職金制度の相違

Y社では、正社員には退職金制度があり、契約社員には退職金制度がなかった。正社員の退職金は、【退職時の本給】×【勤務の年数に応じて定められる支給月数】によって算出された額が支給されるものである。

 

裁判所の判断

職務内容の程度に差異はあるか

裁判所は、正社員は、代務業務やエリアマネージャー業務に従事することがあるのに対し、契約社員は、これらの業務に従事することはないとして、正社員と契約社員の職務内容に相違があると判断した。

 

配置変更の範囲に差異はあるか

裁判所は、正社員は、職務内容や就業場所が限定されることはなく、就業場所の変更や売店業務以外の業務への配置転換の可能性があるのに対し、契約社員は、このような配置転換はないとして、配置変更の範囲にも相違があると判断した。

 

その他の事情

裁判所は、その他考慮すべき事情として、Y社では、契約社員から正社員への登用制度があり、登用制度を利用することによって、賃金差を解消する機会が与えられている点を指摘した。

 

退職金の相違について

裁判所は、退職金の法的性格について、賃金の後払い、功労報償など様々な性格があり、この性格を踏まえると、一般論として、長期雇用を前提とした正社員の労働条件を手厚くして有為な人材の確保のために正社員にのみ退職金制度を設けることは人事施策として一概に不合理ということはできないとしつつ、他方で、本件の契約社員は、契
約期間が原則として更新され、定年が65歳と定められており、原告らは、いずれも約10年程度勤務した者であることからすれば、契約社員の退職金を一切支給しないことは不合理であると判断した。

 

その上で、裁判所は、契約社員である原告らに対して、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する金額を退職金として支払うべきと判断した。

 

判断のポイント

本件は、同一労働同一賃金の問題として、退職金について判断した裁判例であり、退職金の差異について違法と認めた初めての裁判例です。

 

裁判所は、本件における正社員と契約社員につき、職務内容や配置変更の範囲の差があることや退職金の性格(賃金の後払い・功労報償)を踏まえて、退職金全額の請求を認めることはしませんでしたが、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する金額の支払いを認めたものです。なぜ4分の1なのかについては明らかではなく、今後議論を呼ぶことになりそうです。

 

本件は、裁判所が、職務内容や配置変更の範囲の差異を認定したため、全額の請求を認めませんでした。

しかし、このような差異が認定できない場合には、退職金全額について差異が不合理であるとして、退職金制度のない契約社員についても正社員と同等の退職金請求が認められる可能性があります。

 

退職金は金額が大きいため、違法と判断された場合の影響が大きくなります。

今一度、正社員と非正規社員の労働条件の差異について検討する必要がありそうです。

 

なお、本判決は上告されており、最高裁の判断が注目されます。

 

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年8月5日号(vol.235)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。

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