2020.1.5
内部通報制度と関連法令について
内部通報制度とは
内部通報制度とは、一般に企業内で生じてい る不正行為等について、役職員等が企業内に設けられた社内窓口や社外窓口に通報できるようにする制度をいいます。
もともと、この制度を具体的に定めた法令はないものの、企業が健全に発展していくには、不正に対しては厳正に対応されるべきですので(コンプライアンスの観点)、そのために不正を隠蔽せず内部からの情報提供についても積極的に受け入れて健全化に取り組むべきものといえます。
しかし、実際には内部告発により通報した従業員が懲戒処分を受けたり不利益を受けたり、かえって企業が信用を失い利益を損ねる事態も生じ、社会問題ともなっていました。
そのため、公益通報に際して労働者の保護(ひいては国民・消費者の保護)を図るべく、公益通報者保護法が施行されたところです(平成18年)。
同法は内部通報に大きく関連することから、同法を概観したうえで、近年同法が十分機能するようにガイドラインが改訂されたことについて説明をしたいと思います。
(なお会社法制においても、大会社においては内部統制システムを整備することを求められており、コンプライアンス体制の一環として内部通報制度が挙げられています。)
公益通報者保護法の概要
(1) 公益通報保護法は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等、並びに公益通報に関し事業主及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命・身体・財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の順守を図り、もって国民の生活の安定および社会経済の健全な発展に資することを目的としています。
(2) ここで公益通報とは、労働者が、不正の目的でなく、その労働提供先の事業者、役員、従業員等について通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしている旨を当該労務提供先等、当該通報対象事実について処分もしくは勧告等する権限を有する行政機関(監督官庁)、またはその者に対し当該通報対象事実を通報することが、その発生・被害の拡大の防止に必要であると認められるものです。
その通報対象事実とは、個人の生命または身体の保護、消費者の利益の保護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命・身体・財産その他の利益の保護にかかわる法律として、別表(同法参照)で揚げるものを規定する犯罪行為の事実ないしはそれら法律の規定に基づく処分の理由となる事実をいいます。
(3) 同法は特に通報者のうち企業内の労働者を保護することとし、さらに実効性を確保するために監督官庁における措置等も定められています。
公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドラインの改定
ところで、内部通報制度を整備している会社においては、公益通報に限らず会社内部の規則違反やハラスメントも対象とするなど、公益通報者保護法の趣旨に沿いさらに充実させた内容のものが見られます。
しかし他方で、同法施行後も会社の不正は繰り返されて、社会的に重大な事件も続いて発生しています。
そこで、平成29年12月9日(公表)、従来のガイドラインを「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」とし、内部通報制度の実効性が高まるように改定しました。
詳細はガイドラインをご覧頂くとして主な内容は下表のとおりです。(消費者庁HP参照)
制度設計・設備の重要性
以上のガイドラインから、内部通報制度を整備することがどのような規模の会社(中小企業を含む)にとってもその発展や健全化に重要なことがわかります。
また、ガイドラインからは、通報者の保護が法律のみで守られるものではなく、通報の受付方(匿名やプライバシー保護など)やその後の調査・措置・フィードバックなどの整備により充実したものとなるものです。
もっとも、ガイドラインを参考としても、個別の企業の内情により、どのような制度が自らの会社に実効性のある制度か、どのように準備すればいいか、窓口の在り方(社内のみか社外にも設置するか)など難しい面もあります。
そこで、専門家のアドバイスなどをもとに制度設計・整備する必要があるといえます。
おわりに
当事務所においても依頼に応じて制度設計・運用に関わっています。もし、同制度を採用・改善しようとお考えの企業・団体の皆様におかれてはよりニーズにあった対応をさせていただければと思います。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年10月5日号(vol.237)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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