2019.3.5
働き方改革関連法|時間外労働の上限規制について
はじめに
昨年6 月29 日、「働き方改革を推進するための関連法律の整備に関する法律」(いわゆる「働き方改革関連法」)が、成立しました。
働き方改革関連法といっても、そのような名称の法律があるわけではありません。働き方改革関連法とは、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法及び労働者派遣法等の労働関連の法律がまとめて改正されたということを示します。
今回は、時間外労働の上限規制について説明したいと思います(今回取り上げる時間外労働の上限規制は、具体的には、労働基準法の一部を法改正するものです)。
これまでの時間外労働に関するルール
今回の改正法を説明する前に、これまでの時間外労働に関するルールをおさらいしてみたいと思います。
労働時間は、原則として、1 日8 時間(休憩時間を除く)、週40 時間(休憩時間を除く)です(労働基準法32 条)。この規定に違反した場合は、刑事罰の定めがあります。
例外的に、労使協定によって、時間外労働をすることができる時間を定めた場合に、協定の範囲で、時間外労働をすることが可能となります(労働基準法36 条)。この協定が、いわゆる「36 協定」です。
36 協定によってどこまで時間外労働をさせることができるのかという点については、「時間外労働のColumn法務情報働き方改革関連法時間外労働の上限規制について限度に関する基準」に定めがあります。
この基準には、36 協定に定める時間外労働につき、1 週間15 時間、1 か月45 時間、1 年間360 時間が、限度時間として定められています。
ただし、臨時的な「特別の事情」がある場合には、限度時間を超える36 協定を締結することもできるとされています。
時間外労働のルールに関する改正点
では、今回の改正点について解説していきたいと思います。
改正内容は、大まかにいうと、前述の基準が法律(罰則付き)に格上げされたこと及び「特別の事情」がある場合の上限(罰則付き)が設定されたことになります。
基準が法律に格上げされたという点については、実務上の取扱いにはあまり変化のない部分です。
今回の法改正により決定的に変化が生じるのは、臨時的な「特別の事情」がある場合の時間外労働に上限(罰則付き)が設定された点です。
上限の具体的内容は以下のとおりです。
・年720時間以内(休日労働含まない) ・複数月平均80時間以内(休日労働含む) ・単月100時間未満(休日労働含む) ・原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月まで |
ここで注意が必要なのは、「複数月平均80 時間以内」、「単月100 時間未満」との基準には休日労働を含むのに対し、「年720 時間以内」との基準には、休日労働を含まないという点です。(図参照)
出典:厚生労働省ウェブサイトhttps://www.mhlw.go.jp/content/000335765.pdf
労基署の指導の状況
平成27 年7 月に過労死等防止のための対策に関する大綱」が定められて以降、月80 時間を超える時間外労働が疑われるすべての事業場に対する監督指導が徹底されています。
新潟県労働局の発表によれば、新潟県内では、平成28 年4 月から平成29 年3 月までの期間において、409 事業場に対し、監督指導が実施されています。
そのうち、法令違反があり、是正勧告書が交付された事業場は、45.2%であるとされています。
長時間労働対策と生産性向上のために企業が取り組むべきこととは?
長時間労働対策と生産性向上のために様々なことに取り組まれていることと思います。
NTTデータ経営研究所「テクノロジーの活用と労働時間に対する意識」(平成30年7月12日)によれば、働き方改革のために企業が取り組んでいる施策として、
「休暇取得の促進」
「働き方改革に関するトップメッセージの発信」
「労働時間の削減目標の設定」
「労働時間の見える化の推進」
「業務フローの見直しや業務改善」
「無駄な作業の洗い出し」
「管理職に対するマネジメント研修の実施」等
が紹介されています。
また、平成30年版情報通信白書では、ICTの活用と生産性向上について触れられていますが、2010年から2016年まで一貫してクラウドサービスを利用している事業者のほうが、利用していない事業者と比較して労働生産性が高いという報告がなされています。
さいごに
働き方改革は、漫然と労働時間削減をすることで達成できず、生産性向上を推し進める必要があります。明確なトップメッセージを策定した上で、業務改善やICTの活用を進める必要があると言えるでしょう。
※時間外労働の上限規制は、平成31年4月より施行されます。
※中小企業への適用は、平成32年4月からとなります。自動車運転業務、建設事業及び医師等については、施行後5年後に適用されます。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2019年1月5日号(vol.228)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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