法定外の有給休暇につき時季指定が無効とされた事例 ~東京高裁令和元年10月9日判決~
事案の概要
当事者
原告であるXは、被告Y社が運営する英会話教室で非常勤講師として勤務していた者である。
被告であるY社は、英会話教室を運営する株式会社である。
Y社の規程内容
【Y社就業規則】 第15条(休日) 休日は次のとおりとする。 ⑴ 1週の内1日の法定休日を会社が指定する。 原則として、法定休日以外にもう1日会社指定の休みを与える。 ⑵ 国民の祝日。 ただし、講師用カレンダーに従いスクールが開いている日又はトレーニング日などは、祝日でも勤務日とする。 ⑶ 下記の時季に設定される、会社の定める特別ホリデー(実際の期日は、講師用カレンダーに示される。) ① 4月下旬/5月下旬 ② 6月下旬 ③ 8月下旬 ④ 年末年始
第17条(有給休暇) ⑴ 勤続6カ月に達した講師には、年間20日間の有給休暇を与える。 ただし、スクール運営という社業の特性から、5日を超える有給休暇(15日間)については、取得する時季を指定して一斉に取得する計画年休とし、その時季は、講師カレンダーに示される。 ⑵ 上記5日間の有給休暇は、講師の任意の時季にとれるものとする。 ただし、もしその取得によりスクールの通常運営が阻害されると会社が判断する場合、会社は講師に対して取得時季の変更を指示することができる。
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Xの請求内容
Xは、平成28年9月1日から11日の年次有給休暇を取得したことになるため、Y社が指定した15日間の計画年休のうち、6日間が法定の年次有給休暇ということになる。
Xは、Y社からの計画年休の指示に従わず、計画年休として指示された日以外の日に有給休暇を取得した。
Y社は、このようなXの対応等を考慮し、Xの有期雇用を更新せず、雇止めを行った。
これに対し、Xは、計画年休に関する労使協定が締結されていなかったことから、Y社が指示した計画年休は無効であるとして、雇止めも違法であるとして提訴した。
争点
本件の争点は、主に、
①労使協定のない計画年休の指定が無効となるか
②無効となるとしたらその範囲はどの部分か
という点である。
裁判所の判断
争点①について
裁判所は、本件における労使協定を労働基準法39条6項の要件を満たす労使協定とはいえないため、計画年休は無効であると判断した。
争点②について
裁判所は、Y社が、就業規則において、法定年次有給休暇と会社有給休暇とを区別することなく、年間の有給休暇20日のうち15日分について、Y社が時季を指定する(計画年休)としているところ、そのうちどの日が法定年次有給休暇で、どの日が会社有給休暇であるか特定できないとして、Y社の計画年休は、全体として無効(年間20日についてXが自由に時季指定することができる)であると判断した。
本件のポイント
法定の年次有給休暇と法定外の会社有給休暇の違いは?
労働基準法39条1項・2項によれば、使用者は、労働者に対し、雇入れ日からの継続勤務期間に応じて、年次有給休暇を付与する必要があります。
そして、労働基準法39条5項によれば、年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与える必要がありますが、労働基準法39条6項に定める労使協定があれば法定の年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分について使用者が指定する日に有給休暇を付与することができます。
他方、使用者が、法定の年次有給休暇以上に会社有給休暇を付与する場合、会社有給休暇には、労働基準法の適用はないと考えられるため、 使用者は自由に付与することが可能となります。
注意すべきポイントは?
本件のように「法定」の年次有給休暇と「法定外」の会社有給休暇を区別せずに規定すると、 休暇取得時にその休暇が「法定」の休暇なのか 「法定外」の休暇なのか不明確となるため、裁判所は、「法定」の休暇も「法定外」の休暇も全体として無効と判断しました。
法定外有給休暇や計画年休制度を活用している企業は多いと思いますが、本判決を前提とすれば、計画年休制度を構築する際には、「何日分をどのような方法でいつ指定するか」をあらかじめ明確にするなどの対応をする必要があるでしょう。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年4月5日号(vol.243)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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