従業員が新型コロナウイルスに罹患したら労災認定されるのか?(弁護士:五十嵐 亮)

■労災認定の基準は?

従業員が傷病を発症した場合、その傷病の発症が業務に起因していると認められると場合、労災と認定されます。

 

例えば、建設現場で作業員が高所から転落した場合などの怪我の場合には、業務起因性の認定は比較的容易ですが、病気の場合には、けがの場合に比べると業務起因性を認定することが困難なことがあります。

 

■新型コロナウイルスの労災認定基準は?

新型コロナウイルスを発症した場合に、その発症が業務に起因するのかどうかということを判断することは必ずしも容易でありません。

このような状況を受け、厚生労働省は、医療従事者・介護従事者とそれ以外とに分けて一定の基準を示しています。

 

■医療従事者・介護従事者の場合

まず、患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります。

 

原則として、労災認定されるということなので、このような医療従事者・介護従事者の場合には、労災認定が容易になったといえるでしょう。

 

■医療従事者・介護従事者以外の場合

医療従事者・介護従事者以外の場合には、「感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合」には、労災保険給付の対象となります。

 

この場合には、感染経路を特定できる場合を当てはまります。同じ事業所内に感染者がいた場合などは認定されることとなるでしょう。

他方、調査により感染経路が特定されない場合であっても、「感染リスクが相対的に高いと考えられる労働環境下」での業務に従事していた労働者が感染したときには、個々の事案に即して適切に判断することとされています。

 

「感染リスクが相対的に高いと考えられる労働環境」については、厚生労働省より以下のとおり説明されています。

 

①複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務

⇒請求人を含め、2人以上の感染が確認された場合をいい、請求人以外の他の労働者が感染している場合のほか、例えば、施設利用者が感染している場合等を想定

 

②顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務

⇒小売業の販売業務、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務等を想定

 

■注意すべきポイントは?

以上のとおり、医療・介護をはじめとして接触の機会が多い業種については、注意が必要です。

 

いずれにしても、専門家会議の提言等で示されている感染防止対策やいわゆる「新たな生活様式」に沿って、可能な限り感染防止対策をとることが必要になろうかと思います。

 

なお、本記事は、令和2年5月13日時点での情報をもとに執筆しています。新型コロナウイルスに関する運用は今後変更・改訂されることがあり得ます。

 

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この記事を執筆した弁護士
弁護士 五十嵐 亮

五十嵐 亮
(いからし りょう)

一新総合法律事務所
理事/弁護士

出身地:新潟県新潟市 
出身大学:同志社大学法科大学院修了
長岡警察署被害者支援連絡協議会会長(令和2年~)、長岡商工会議所経営支援専門員などを歴任しています。
主な取扱分野は企業法務全般(労務・労働・労災事件、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、離婚。 特に労務問題に精通し、数多くの企業でのハラスメント研修講師、また、社会保険労務士を対象とした労務問題解説セミナーの講師を務めた実績があります。
著書に、『労働災害の法律実務(共著)』(ぎょうせい)、『公務員の人員整理問題・阿賀野市分阿賀野市分限免職事件―東京高判平27.11.4』(労働法律旬報No.1889)があります。