2020.6.22
ハンコと電子署名(弁護士:今井 慶貴)
※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。
第38回のテーマ
この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。
気楽に楽しんでいただければ幸いです。
今回のテーマは、ハンコと電子署名です。
その1.ハンコがテレワークの邪魔をする?
先日の日経新聞に、新型コロナウイルスの影響で「ハンコ文化」見直しの機運が高まる中、クラウド上で結んだ電子契約に法的リスクの懸念がないかという記事が載っていました。
当事務所でも最近、国内で8割のシェアを占める弁護士ドットコムの「クラウドサイン」を導入したこともあり、興味を持って読みました。
要点を紹介します。
クラウド型の電子契約には実は2種類があります。
まず、「当事者型」は、契約当事者が電子証明書を取得し、各自が電子署名をします。
各当事者は予め認証サービス事業者と契約を行い、電子証明書の入ったICカードや電子ファイルの発行を受ける手間があります。
次に、「立会人型」は、PDFなどの書類データをネット上で合意し、ネット上において事業者が自らの名義で「契約書が甲と乙によるものであることを確認した」と電子署名します。
事業者はメールアドレス等で本人確認をしますが、各当事者は電子証明書を用意しなくてよいというメリットがあります。
クラウドサインは立会人型です。
その2.電子署名法の見直しが必要?
2001年に電子署名法が施行されており、その3条では、電磁的記録(電子文書等)は、本人による一定の電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定するとされています。
通常の私文書について、本人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する、という民事訴訟法の規定と同様の取扱いです。
「当事者型」の電子契約の場合には、上記の規定が当てはまりますので、電子契約書を締結する意思表示を各当事者がしたことの推定が働きます。
他方で「立会人型」の場合には、この推定は働かないとされているようです。
もちろん、事業者による契約の立会人としての電子署名はありますので、電子契約が各当事者によって締結されたことの証明力は通常は十分に認められるものと考えられます。
ただ、この点についての判例もないことから、法的な裏付けを明確にしてほしいという要望があるいうことで、現在、政府の規制改革推進会議でも検討が行われているということです。
最後に一言。
我が国の「ハンコ文化」は、明治6年10月1日制定の太政官布告で、公式の書類には実印を押すように定められたことに由来するそうです。
これからも、技術の進歩によりハンコの機能を代替するものが出てきたとしても、ハンコの重要性はすぐには揺らがないでしょう。
10月1日は、ハンコの日!
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