2020.9.7
新型コロナウイルスと企業の倒産・廃業の状況(弁護士:朝妻太郎)
1 廃業を検討する可能性のある中小企業が8.5%
令和2年8月18日、株式会社東京商工リサーチによる第7回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査の結果が公表されました。
これによれば、新型コロナに関連した資金繰り支援の利用率は、中小企業で49.9%、新型コロナの収束が長引いた場合、廃業を検討する可能性のある中小企業は8.5%に上るとの結果でした。
東京商工リサーチの分析では、「平成28年経済センサス-活動調査」に基づく中小企業数から換算数と、約30万社を超える中小企業が廃業を検討しているのではないか、とのことです。
一新総合法律事務所でも、新型コロナの拡大が進んだ令和2年2月以降も、複数の企業倒産案件の受任や、裁判所から選任される破産管財人に就任した案件があります。
ただし、感覚的ではありますが、新型コロナの影響による倒産・破産というよりも、新型コロナ以前から財務状況が悪かった企業がほとんどであり、現時点では、新型コロナだけが原因となって倒産・破産した案件はあまりないように感じています。
他士業の先生方や中小企業者の方々からお話しをうかがっても、表向き新型コロナウイルスの蔓延による売上減を理由としていても、新型コロナが最後の引き金にはなったかもしれないが、それだけが原因というところは聞かない、という意見も聞いているところです。
また、現時点では、公になっている倒産案件(法的手続である破産や民事再生等)は顕著に増加してはいない状況です。
新潟県内についてみると、帝国データバンクが公表した「新潟県企業倒産集計 2020年8月報」によれば、8月の新潟県内の倒産件数は6件、負債総額は5億6,000万円で、7月と比べ件数、負債総額とも減少しています。
また、前年同期(令和元年8月)は倒産件数5件、負債総額8億3,600万円であったことをみると、例年と大差ない状況と言えるかもしれません。
しかし、これは現在、行政、政府系金融機関、民間金融機関が一時的に支援策を取っていることによるものであり、一時的な融資で急場を乗り越えたとしても、近い将来、返済の負担で経営状態の悪化を招く企業が多く出ることは容易に想像されます。
実際に、上記の東京商工リサーチ社のアンケートでは、廃業を検討する可能性があると回答した中小企業を対象に、廃業を検討する時期を尋ねた質問では、「13ヶ月から24ヶ月以内」(に廃業を検討する。)と回答した企業が32.88%で最も多くなっていました。
多くの企業が、直ちに廃業する訳ではないものの、このままの状況が続けば、そう遠くない時期に廃業を検討せざるを得なくなると考えているようです。
2 廃業・倒産に関連して留意すべき事項
新型コロナの影響による廃業・倒産が懸念される中、企業としてはどのような点に留意をしていけば良いでしょうか。
経営改善に関する詳細な対応策については、我々よりも経営に精通している経営コンサルタント等の指摘に委ねたいと思いますが、ここでは、特に以下の2点を指摘したいと思います。
(1) 自社の検討 ~資金繰りの確認~
資金繰りの検討は既に多くの事業者の皆さんがやっておられることでしょう。
概ね月次の資金繰り表を作成されていると思いますが、特に厳しい状況にある企業にあっては、日単位の資金繰り表の作成も検討いただきたいところです。
また、新型コロナの第2波が収束しつつありますが、秋・冬に入り、第3波、第4波が押し寄せる場合も想定して備える必要があります。
現状では、収束が全く見通せない状況と言わざるを得ませんので、数ヶ月分の資金繰りの検討は必要かと思われます。
参考までに、中小企業再生支援協議会の新型コロナウイルス感染症特例リスケジュールの要項では、
「特例リスケ計画案においては、少なくとも、新型コロナウイルス感染症の影響が6か月間継続する場合を想定し、1年間の資金繰り計画を作成する。」とされており1年間の資金繰り計画の作成が要請されています。
資金繰り表を作成すると共に、キャッシュイン(収入)の部分の改善や、キャッシュアウト(支出)の減少を図るため、自前の対策に加えて、現在用意されている支援策を有効に活用することが肝要です。
なお、既に当事務所のコラムでもご紹介していますが、経済産業省が支援策パンフレットを作成し、各種支援策をまとめていますので、一度ご確認いただければと思います。
<経済産業省HP> https://www.meti.go.jp/covid-19/index.html
(2) 取引先への対応 ~債権管理のあり方について~
他方、債権者の立場からは、新型コロナによる倒産・廃業リスクの上昇に対して、どのように備えることができるのでしょうか。
債権者の立場として、取引先の倒産リスクの高まりから、債権管理や回収方法について、何らかの手を打ちたいと考えることは当然のことかと思います。
ただし、残念ながら、新型コロナを理由として、新たな債権回収方法が策定されたり、担保制度が設けられたということは、今のところありません(なお、新型コロナとは直接関係ありませんが、令和2年4月1日に民事執行法の改正がありましたので、この点については債権回収の一環として押さえておいた方が良いでしょう。
民事執行法の改正内容は別のところで触れたいと思いますが、ご興味のある方は是非当事務所の弁護士にお問い合わせください。)。
そのため、従前より当事務所の弁護士が債権回収のポイントとしてお伝えしているような、債務者の資産・負債の状況の確認、資金繰り状況(取引の状況など)、の情報収集と、必要な場合には物的担保・人的担保の検討といった対応をきちんとおこなっていくしかないと思われます。
担保権の設定は、債務者側の了解を前提としますが、無理に要求することは債務者側の抵抗を招きますので、担保の設定を求めることが、債権回収のために逆効果ともなり得ますので、個々の取引先ごとに対応方法を考えて行くことが必要です。
また、残念なことに、取引先が法的倒産手続を取った際には、法的手続の中で債権回収を図ることとなりますが、どのような手続で進むのか、事前に理解されておくことが必要です。
取引先の破産を受けて、慌てて債権届出の方法を尋ねに来られる企業の方もたまにおられますので、社内の知識として、事前に把握されておくことをおすすめします。
※中小企業支援協議会の特例リスケジュール(特例リスケ)とは※
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、既往債務の支払いに悩む中小企業のために、中小企業再生協議会が中小企業に代わり、一括して元金返済猶予の要請を実施するもの。
1年間の新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール計画を作り、中小企業の既往債務の負担軽減を行う。
また、新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール計画において、中小企業が金融機関と作成する1年間の資金繰り計画策定を、中小企業再生支援協議会が支援したり、政府からの配慮要請や資金繰り支援策はあるものの、つなぎ融資のための金融機関調整が難しい中小企業のために、協議会が代わりに金融機関調整を行い、政府系金融機関及び民間金融機関からのニューマネーの調達を支援することが想定されている。
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