2020.8.5
育児介護休業法及び関連法規改正に伴う対応(弁護士:勝野照章)
育児介護休業法の重要性
令和元年12月27日に改正育児介護休業法施行規則及び改正指針が公布・告示されました。
現在、国は、一億総活躍社会の実現を掲げ、子育て支援や社会保障の基盤強化を目指している状況です。
育児介護休業法は、女性の社会進出が増え始めた平成4年4月1日に施行され、複数回にわたる改正を経ながら、労働者の権利の拡充を図ってきました。
国は、今後も「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」を重視し、労働環境の向上を図るため、法制度の整備と厳格な法運用を目指すものと思われます。
こうした国の姿勢からしますと、育児介護休業法を適用する場面は今後増加することも予想されます。
そこで、育児介護休業法によって労働者はどのような権利が保障されるのか、使用者側としては如何なる義務を負うことになるのかをみていきたいと思います。
育児介護休業法の概要
育児介護休業法は、子育てや介護など家庭の状況から時間的制約を抱えている時期の労働者の仕事と家庭の両立支援を目指す法律です。
その内容は、労働者の雇用を保護することが中心となりますが、労働者の福祉を増進することが結果的に経済及び社会の発展に資することに繋がると考えられています。
支援制度の具体的な内容
労働者には、育児支援のため、育児休業、子の看護休暇、所定外労働・時間外労働の制限、 深夜業の制限、所定外労働時間短縮を求めることが認められています。
また、介護支援については、介護休業、介護休暇が認められ、その他育児における支援制度と同様に、所定外労働・時間外労働の制限、深夜業の制限、所定外労働時間短縮措置を求めることが認められています。
そして、事業主は原則的に労働者からの要請を拒否することはできません。
事業主に求められる事項
事業主は、育児介護休業の支援制度に関する取り決めを就業規則に記載する必要があります。
また、育児介護休業法を下回る、より厳しい条件を設けた取り決めを就業規則に記載したとしても、 その当該部分は無効になると解されています。
そして、作成された就業規則は、これを所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
その他、事業主は、育児介護休業等に関する定めを労働者に周知するなどの努力義務が課された上、労働者から育児介護休業等の申請が あったことを理由に労働者に対し不利益な行為を行うことが禁止されます。
禁止される不利益な行為とは
育児介護休業法では、法に基づいた制度の申出や休業等を取得した労働者に対し事業主が不利益な行為をしないよう定められています。
不利益な行為には、解雇、契約の更新をしない、更新回数の引き下げ、降格、減給又は賞与等において不利益な算定を行う、昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行う、不利益な配置の変更を行うといったものが挙げられます。
不利益行為は、育児介護休業等の申出等をしたことを理由に行われた場合に違法となるところ、原則的には、育児介護休業等の事由が終了してから1年以内に不利益行為がなされた場合は、これに該当すると判断されています。
育児介護休業中の収入保護について
多くの事業者において、育児介護休業中は労働者の給与の支払いはありませんし、給与を支払わないことは違法とはなっていません。
しかし、お金のことが心配で育児介護休業の取得をためらうことがないよう、育児介護休業には、さまざまな経済的支援の制度があります。
育児介護休業中の経済的支援としては、育児休業給付金、介護休業給付金があります。育児休業給付金は、1歳(例外的に伸長があります。) 未満の子を養育するために育児休業を取得した等の一定要件を満たした労働者を対象に、原則として休業開始前賃金の67%(休業開始から6か月経過後は50%)が支給されるものです。
介護休業給付金は、要介護状態にある対象家族を介護するために介護休業を取得した等の一定の要件を満たした労働者を対象に、原則として休業開始前賃金の67%が支給されるものです。
その他、産前産後休業の育児休業期間中の社会保険料の免除など、利用可能な福祉制度も存在します。
近年における育児介護休業法改正のポイント
育児介護休業法はこれまで複数回にわたって改正されてきました。
特に育児に関わる制度については、対象労働者の拡大、看護休暇の付与日数の増加、時間外・深夜業の制限期間の伸長など、労働者の保護を目指す内容に変わってきています。
育児休業給付金も、平成12年までは休業前賃金の25%に過ぎなかったものが、平成26年4月1日には休業前賃金の67%(休業開始から6か月経過後は 50%)と大きく変化しました。
令和3年1月1日からの改正のポイントについて
そして、令和3年1月1日からは、子の看護休暇や介護休暇が時間単位で取得できるようになります。
改正前は、半日単位での取得しか認められておらず、また、1日の所定労働時間が4時間以下の労働者は取得できないとされ、多様な生活スタ イルを持つ労働者の実情からすると使い勝手の悪い部分がありました。
改正によって、全労働者について時間単位での休暇の取得が可能となり、労働者が柔軟に仕事と家庭の状況をみて判断することができることになります。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2020年6月5日号(vol.245)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。