知らないうちに商標権を侵害?(弁護士今井慶貴)

「弁護士今井慶貴のズバッと法談」は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士 今井 慶貴 が2017年4月より月に一度連載しているコラムです。

第2回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、「商標権」です。

 

 

その1 商標を出願しまくる人

少し前に、流行りの言葉を商標出願する元弁理士の人が話題になりました。報道によると、「じぇじぇ」「PPAP」「STAP細胞はあります」「北陸新幹線」「民進党」など……だそうです。

 

商標権の取得は、先に出願があった方が優先するのが原則です。この方は、当時のメディアの直撃取材に対して、「あくまで権利は自分にあるのでピコ太郎が許可なくPPAPを歌うと損害賠償請求の対象になる」と強気の姿勢を示したそうです。

 

特許庁からは、昨年5月に「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」で注意を喚起しています。要旨は、「最近、一部の出願人の方から他人の商標の先取りとなるような商標登録出願が大量に行われているけど、これらのほとんどは出願手数料の支払いがなく、特許庁では、いずれ出願を却下するヨ。仮に出願手数料の支払いがあった場合でも、その商標が、出願人の業務に係る商品・役務について使用するものでない場合や、他人の著名な商標の先取りとなるような出願や第三者の公益的なマークの出願である等の場合には、商標登録されることはないヨ。なので、仮に自分の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、商標登録をあきらめないでネ!」というものです。

 

その2 実際にあったケース

私の経験でも、クライアントが、商標権者から商標の使用差止めを求められたケースがあります。

 

【事例1】は、ある地域で「●●」という名称で店舗を展開していたA社に対し、他県を本拠地とする同業者から、「店舗名が自社の●●という商標権を侵害しているので、商標を使用しないように」との内容証明が届いたケースです。A社は、出願日より前にその店舗名を使用していたので、先使用権という権利を主張しつつ、最終的に和解しました。ただ、「需要者に周知」という先使用権の要件はハードルが高いのが実際です。

 

【事例2】は、地元で「××▲」というサービス名称でサービス業を営んでいたB社に対し、全国規模の大手同業者から、「自社の登録商標××に類似した商標である××▲を使用しないように」という内容証明が届いたケースです。実は、B社は「××▲」について登録商標を取得していました。ただ、登録商標も裁判で無効を争えるため、その負担や無効となった場合のリスクを考えて、和解しました。

 

このように、自社の正当なビジネスに思わぬ横やりが入ることもあるのです。まずは、「特許情報プラットホーム J-PlatPat」で商標権の出願・登録状況をネット検索してみましょう。

 

最後に一言

最後に、永ちゃんの日産のCM風に一言。

 

「とっちゃえ、商標」