2018.5.22

正規社員と非正規社員の待遇格差(弁護士:渡辺伸樹)

 

従業員の待遇については、経営者の皆様が最も気を使う問題の一つだと思います。

特に、いわゆる正規社員と非正規社員(有期雇用労働者)の待遇に、どの程度の差をつけてよいか悩んだことがある経営者の皆様も多いのではないでしょうか。

こうした正規社員と非正規社員の待遇格差の問題に絡んで、昨年9 月に東京地方裁判所で注目すべき判決が下されました。

 

 

事案

日本郵便株式会社(被告)が3 名の時給制契約社員(原告)から訴えられた事案です。

原告らは、様々な労働条件(外務業務手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇等)について、時給制契約社員と正規社員の間に不合理な格差があり、これが労働契約法(以下「労契法」)第20条に違反するとして、会社を相手に裁判を起こしました。

 

労働契約法第20 条について

まず、労契法第20 条(※1)について簡単に説明しておきます。

労契法第20 条は、平成24 年の法改正で新たに盛り込まれた条文で、簡単に言うと、期間の定めがあることにより、正規社員と非正規社員の待遇(労働条件)について不合理な格差をつけてはならないことを定めた条文です。

この条文は、正規社員と非正規社員を全く同じ待遇にすることまでは求めていません。

正規社員と非正規社員との間で、労働条件に相違が生じることを前提としつつ、その相違が不合理なレベルに達したらダメですよ、ということを定めた条文です。

不合理な相違かどうかは、①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して判断されることになります。

 

判決の内容

裁判所は、原告らとその職務の内容などが類似する職種の日本郵便の正規社員について、先ほどの考慮要素に沿って、個々の労働条件の相違が不合理なものといえるかどうかについて検討しました。

そして、年末年始勤務手当については、職務の内容等が類似する職種の正規社員に対して支給している額の8割、住居手当についてはその6割を支払うよう会社側に命じました。

夏期冬期休暇、有給の病気休暇が原告ら時給制契約社員に与えられていない点についても不合理であると判断しました。

これら以外の労働条件については、格差が不合理なものとはいえないとして、原告らの請求を退けました。(※2)

 

この裁判例から学ぶこと

上記の裁判例から明らかなとおり、非正規社員だからということで、個々の労働条件に不合理な格差を設けていると、会社は訴訟リスク・損害賠償請求のリスクを負うことになります。

万が一、非正規社員は正規社員よりも待遇が悪くて当然という考えをもっている方がいらっしゃるとしたら、それは改めなければなりません。

 

 

今回のケースは、あくまでも日本郵便株式会社の時給制契約社員と正規社員との間の労働条件の相違についての判断であり、年末年始勤務手当、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇についての相違が不合理であるとした結論部分を一般化することはできません。

今回不合理と判断されたもの以外の手当等についても、ケースが異なれば違法と認定されることは十分あり得ますので、注意が必要です。

 

今回ご紹介した裁判例は、労契法20 条違反の判断枠組みについて学ぶうえでとても参考になるものです。

労契法第20 条に関する裁判例は、これから先も次々と出てくることが予想されますので、今後も注視していきたいと思います。

 

※1 労働契約法第20 条有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この状において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

※2 東京地裁の判決に対し当事者から控訴がなされたため、本原稿執筆日現在、判決は確定していません。

 

 

◆弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士 渡辺伸樹

<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2018年4月5日号(vol.219)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。