ハンコと電子署名(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

 

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

 

第38回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

 

今回のテーマは、ハンコと電子署名です

 

その1.ハンコテレワーク邪魔をする

 

先日の日経新聞に、新型コロナウイルスの影響で「ハンコ文化」見直しの機運が高まる中、クラウド上で結んだ電子契約に法的リスクの懸念がないかという記事が載っていました。 

当事務所でも最近、国内で8割のシェアを占める弁護士ドットコムの「クラウドサイン」を導入したこともあり、興味を持って読みました。 

要点を紹介します。

 

クラウド型の電子契約には実は2種類があります。 

 

まず、「当事者型」は、契約当事者が電子証明書を取得し、各自が電子署名をします。

各当事者は予め認証サービス事業者と契約を行い、電子証明書の入ったICカードや電子ファイルの発行を受ける手間があります。 

 

次に、「立会人型」は、PDFなどの書類データをネット上で合意し、ネット上において事業者が自らの名義で「契約書が甲と乙によるものであることを確認した」と電子署名します。

事業者はメールアドレス等で本人確認をしますが、各当事者は電子証明書を用意しなくてよいというメリットがあります。

クラウドサインは立会人型です。 

 

その2.電子署名法の見直しが必要?

2001年に電子署名法が施行されており、その3条では、電磁的記録(電子文書等)は、本人による一定の電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定するとされています。

通常の私文書について、本人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する、という民事訴訟法の規定と同様の取扱いです。 

「当事者型」の電子契約の場合には、上記の規定が当てはまりますので、電子契約書を締結する意思表示を各当事者がしたことの推定が働きます。

 

他方で「立会人型」の場合には、この推定は働かないとされているようです。 

もちろん、事業者による契約の立会人としての電子署名はありますので、電子契約が各当事者によって締結されたことの証明力は通常は十分に認められるものと考えられます。 

ただ、この点についての判例もないことから、法的な裏付けを明確にしてほしいという要望があるいうことで、現在、政府の規制改革推進会議でも検討が行われているということです。 

 

最後に一言。

我が国の「ハンコ文化」は、明治6年10月1日制定の太政官布告で、公式の書類には実印を押すように定められたことに由来するそうです。

これからも、技術の進歩によりハンコの機能を代替するものが出てきたとしても、ハンコの重要性はすぐには揺らがないでしょう。 

 

10月1日は、ハンコの日!

 

ご注意

記事の内容については、執筆当時の法令及び情報に基づく一般論であり、個別具体的な事情によっては、異なる結論になる可能性もございます。ご相談や法律的な判断については、個別に相談ください。

当事務所は、本サイト上で提供している情報に関していかなる保証もするものではありません。本サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、当事務所は一切の責任を負いません。

本サイト上に記載されている情報やURLは予告なしに変更、削除することがあります。情報の変更および削除によって何らかの損害が発生したとしても、当事務所は一切責任を負いません。