生成AIと弁護士業務のこれから(弁護士:今井 慶貴)

※この記事は、株式会社東京商工リサーチ発行の情報誌「TSR情報」で、当事務所の企業法務チームの責任者 弁護士今井慶貴が2017年4月より月に一度連載しているコラム「弁護士今井慶貴のズバッと法談」の引用したものです。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 今井 慶貴

今井 慶貴
(いまい やすたか)

一新総合法律事務所
副理事長/新潟事務所長/弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:早稲田大学法学部

新潟県弁護士会副会長(平成22年度)、新潟市包括外部監査人(令和2~4年度)を歴任。
主な取扱分野は、企業法務(労務、契約、会社法務、コンプライアンス、事業承継、M&A、債権回収など)、事業再生・倒産、自治体法務です。
現在、東京商工リサーチ新潟県版で「ズバッと法談」を連載中です。

第74回のテーマ

この“ズバッと法談”は、弁護士今井慶貴の独断に基づきズバッと法律関連の話をするコラムです。

気楽に楽しんでいただければ幸いです。

今回のテーマは、生成AIと弁護士業務のこれからです。

その1.存在しない判例を引用?

最近のニュースで、米ニューヨーク州の弁護士が民事訴訟の資料作成に生成AIのChatGPTを利用した結果、存在しない判例を引用していたというものがありました。

その事件は、フライト中に食事配膳用カートが当たって怪我をしたとする乗客が南米コロンビアの航空会社を訴えたものでしたが、弁護士がChatGPTを使って資料を作成したところ、他の航空会社が関連しているとされた6件の実在しない判例を引用してしまったというものです。

裁判官が、引用された判例が見つからなかったため確認したところ、ChatGPTの利用が判明したということです。

生成AIが堂々と間違った情報を回答することを「ハルシネーション(幻覚)」といいます。

その弁護士は、「非常に後悔しており、今後は正当性を検証せずに絶対に利用しない」「情報源として信頼できないことが明らかになった」と語っていたということですが、「当たり前やろ!」と総ツッコミが入ってもやむを得ません。

米国は判例法の国ですので、判例を引用する場合に出典を確認しない段階で基本がおろそかになっていたという気もします。

その2.日本の法律事務所などでの活用は?

週刊ダイヤモンドの2023 6/10・17号の「GhatGPT完全攻略」という特集記事によれば、5大法律事務所の一つである森・濱田松本法律事務所ではTOB(株式公開買付)の類例を検索するシステムを実用化し、証券会社などに有料で開放するなど、リサーチ業務にAIやITを積極的に活用しているほか、弁護士が判断を下すための資料づくりの大部分をAIなどに任せていく方針であるということです。

また、弁護士ドットコムは、本年5月に過去に蓄積したネット上の法律相談のやりとりを学ばせたChatGPTが人の質問に回答するチャットサービスの試験提供を開始しています。

私の事務所のスタッフも試しに利用し、私もその回答を見てみましたが、それなりの内容になっていました。

ただ、今のところはAIの回答はあくまで参考情報であり、最終的に責任を持って判断するのは人であるというスタンスであることに変わりはないようです。

そういう意味では、従来の判例検索や各種書類作成ツールの延長線上にあります。

最後に一言。

巷では生成AIによって仕事がなくなるという言説もありますが、どちらかといえば、生成AIの活用によって仕事のやり方が変わっていくという方向性なのではないでしょうか。

生成AIをおそれず、うまく使いこなす。


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